ADHDは「悪い子育てが原因」という誤りを覆す、脳科学の研究結果

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注意欠陥・多動性障害(ADHD)の子どもの脳に、通常とは異なる神経結合が見られたとする研究論文が、米国の精神医学ジャーナルであるThe American Journal of Psychiatry誌に2024年3月13日付で掲載された。

米国立衛生研究所(NIH)のチームが手がけたこの研究によると、ADHDの子どもには、脳の前頭葉と、脳の深部にある情報処理中枢とのあいだに、神経の非定型的な「配線」が認められたという。

このような知見は、ADHDに対する我々の理解を深めるものだ。そして、「親の育て方が悪い」とする根強い神話を打ち砕くのに役立つ生物学的根拠を追加するものとなる。研究チームは、ADHDの脳が実際にどのように機能しているのかを引き続き調査することが、より効果的な治療法につながることを期待している。

子どもの9%に見られるADHD

最近の統計によると、米国では3~17歳の子どもの約9%がADHDであるとされている。通常は7歳前後で診断を受けるが、症状が重い子どもでは、もっと早く診断されることもある。

ADHDの診断基準の一つである発症年齢の早さと、ADHDの遺伝率が74%に上る事実も、ADHDに生物学的な要因が関与していることを示す証拠だ。

今回の研究は、8000人の子どもの脳機能画像1万枚を分析したものであり、ADHDの子どもが神経学的に非定型(neuroatypical)である事実を改めて裏付けている。言い換えれば、「悪い子育て」が子どものADHDを引き起こすという、根強い(しかし誤った)通説を否定する根拠となるものだ。

ADHDの脳に見られる、非定型的な神経結合

磁気共鳴機能画像法(fMRI)を用いた多くの研究が、脳の皮質下から皮質へのループ構造が、ADHDの発症に関与していることを示唆している。これらのループ構造は、大脳皮質の特定領域と脳の深部構造をつなぐ回路群であり、両領域間の相互作用を可能にしている。

しかし、この種の研究は概して小規模であり、おそらくは規模の小ささゆえに、これまで一貫性のある結果が得られていなかった。

今回の研究は、NIH傘下の国立精神衛生研究所(NIMH)および国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)の研究チームが手がけたものだ。平均年齢約10.5歳の子ども8000人余りの脳機能画像を分析し、ADHDと診断された子ども1696人の画像と、ADHDではない対照被験者6737人の画像を比較している。

研究の結果、ADHDと診断された小児および青少年の脳に、皮質下-皮質ループ構造の影響が関与していることが確認された。また、多くの交絡因子の可能性を評価したところ、研究結果は頑健である(変化しない)ことがわかった。
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翻訳=高橋朋子/ガリレオ

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