幼少期の子どもにおいて、自分を育ててくれる養育者は、主な愛着の対象者として対人関係の内的モデルを形成し、世界における安全と安心の感覚に影響を与える。養育者が一貫した愛情や支援、保護を提供できない場合、子どもは、自分に価値がないという感覚や恐怖、不安を内在化し「愛着がもたらす傷」の基盤が生まれる可能性がある。
同様に、成人期の親密な関係においても、恋人から裏切られたり、拒絶されたり、感情を無視されたりすると、愛着がもたらす傷が生じることがある。同じパターンの関係が繰り返されることで、愛着における不安が増強されると、特に影響が大きくなる。
こうした傷は、さまざまなかたちで表面化し、個人の心の健康や対人関係に影響を与える。ここでは、その具体例を3つ紹介しよう。
1. 「基本的な安心感」の混乱
重要な時期に見捨てられたり、信頼を裏切られたりすると、愛着がもたらす傷が生じ、対人関係の苦痛や不安が永続するようになる。こうした傷はしばしば、過覚醒(hypervigilance)として表面化する。過覚醒とは、危害を加えられたり、拒絶されたりすることをあらゆる場面で想像し、いつも警戒状態にあることだ。過去の裏切りが大きく立ちはだかることで、関係性に対する信頼をつかみにくくなり、サポートしてくれる他者を信頼することが難しくなる。
これ以上傷ついたり、拒まれたりすることを恐れて、警戒心を解くことに抵抗を感じるうちに、親密になることへの恐怖に支配されてしまう。このような内的葛藤は、孤独と精神的苦痛のサイクルを永続させ、健全で充実した関係を育むことが難しくなる。
2. アイデンティティーの分裂
2023年に発表されたレビュー論文は、愛着に関わるトラウマ的体験が、いかに自己意識の重要な側面に深く影響するかを強調している。このような体験は、以下の基本的な精神機能に混乱をもたらす。・自伝的な記憶:個人的な出来事の記憶
・主体感:自分の行動をコントロールしているという感覚
・自意識:自分自身への認識
その結果、自己同一性や、継続的な自己意識、身体的体験との一体感やつながりを維持するのに苦労することになる。
3. 親密さや、性的なつながりへの影響
2022年のある論文は、愛着がもたらす傷が、親密さや性的充足感に大きな影響を与えることを強調している。過去の傷への防衛機制として心の壁が築かれると、その結果として、本当の感情的な親密さが得られにくくなる。自分の傷つきやすさを見せられないことは、親密さへと至る道が邪魔されることにつながり、本物のつながりと性的充足感の追求が妨げられるのだ。まだ癒えていない愛着の傷に直面した人は、回避や執着といった、不適応的な対処メカニズムに頼る可能性がある。そうなると、対人関係の困難はさらに悪化する。これらの傷は、癒されなければそのまま持続し、精神的苦痛と生活の質の低下につながる。