同専務理事について、フランスのブルーノ・ルメール財務相は「適切な時期に適切な職務を行う適切な人物」だと評した。フランスの財務相がこのような発言をするのは当然だろう。第二次世界大戦以降、米国が世界銀行総裁の座を独占してきたように、IMF専務理事の座は欧州の「世襲財産」となってきたからだ。
本稿は、現職のゲオルギエワ専務理事が2期目にふさわしいかどうかを論じるものではなく、欧州の官僚が他国の官僚より有利な条件でIMFを不当に牛耳っている現状に疑問を呈するものである。
フランスのエマニュエル・マクロン大統領からドイツのオラフ・ショルツ首相に至るまで、欧州の首脳はグローバルガバナンスや規則に基づく国際秩序の維持がいかに重要であるかを新興国に口うるさく教え諭しているが、こうした欧州の偽善は非難されなければならない。規則に基づく国際秩序は1940年代後半に確立された世界経済の運営に関する国際規範であり、今日では明らかに時代遅れとなっている。
規則に基づく国際秩序を巡る欧州による揺さぶりは、2022年のロシアによるウクライナ侵攻開始を機に頂点に達した。制裁を無視してロシアから石油や天然ガスを輸入するインドなどの途上国に対し、EUは激怒したのだ。他方で欧州は、エネルギー安全保障の名の下にほぼ同じことをしているのは皮肉である。
ここで欧州に問いたい。グローバルガバナンスと規則に基づく国際秩序が欧州にとってそこまで重要なのであれば、なぜEUは、ゲオルギエワ専務理事の2期目に対する支持を各国に要請する代わりに、同理事の退任後の後任候補者の擁立を自主的に見送ると表明しないのだろうか?
恐らく多くの欧州人は、私がEUを標的にし、この件に関して米国をただ乗りさせることに反対するだろう。IMFと世銀のトップの座を巡り、欧米が特権を分け合いながら甘い蜜を吸っていることは、まったく異なる世界の慣習であり、欧州のみならず、米国にもこれを廃止する責任がある。過去20年間、米財務省の後ろ盾がなければ(そして欧州に正しいことをするよう働きかけなければ)意味のある統治改革は行われなかったであろうことは、米国の名誉のために言っておかなければならない。