1万人の1%より300人の90%を。モンベル発「非集客型」イベントの真意

SEA TO SUMMITの発案者、モンベル会長の辰野勇氏(左)と鳥海山大会の実行委員会のメンバー(写真提供:モンベル・茂田羽生)

「収益事業ではなく、あくまで地方の応援」に、力を注ぐ理由

写真提供:モンベル・茂田羽生

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「もちろん我々はイベント会社ではないので、SEA TO SUMMITは収益事業ではありません。あくまで地方の応援としておこなっています」
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なぜ大手アウトドアメーカーがここまで環境スポーツイベントに力を注ぐのだろうか? 開催地域に実行委員会をつくっているとはいえ、モンベルが全く関与しないわけではない。各地へ足を運んでコースを考え、試走し、地元の人たちと煮詰めていく。さらに今年は全国12カ所での開催。これだけの地域に関わるのはなかなかエネルギーのいる仕事だろう。

しかしその背景は、企業理念から紐解くことができる。

モンベルは7つのミッションと題し、「自然環境保全意識の向上」や「子どもたちの生き抜いていく力の育成」などを使命として掲げている。また地方自治体との取り組みも注力していて、2022年8月現在は112箇所の市町村と「包括連携協定」を結び、これまで培った技術やノウハウを惜しみなく共有している。
写真提供:モンベル・茂田羽生

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何度もいうが、SEA TO SUMMITは単なるスポーツイベントでなく、“環境”を主軸としたスポーツイベント。大会前日には必ずその土地の自然環境や地域振興について学べるシンポジウムが開かれ、これから自分たちが遊ぶフィールドがどんな場所なのか、取り巻く環境を知ることができるようになっている。
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こうした環境に真摯に取り組む姿勢が、多くのアウトドア愛好家や開催地域の住民に支持され、“自分の町でも開催したい”という地域からのオファーが増えて全国に広がっているのだ。

「誰でも参加できる大会でありたい」。心のバリアフリーをめざして

写真提供:モンベル・茂田羽生

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アウトドアメーカーと地域と参加者が一丸となってつくりあげるSEA TO SUMMIT。「誰でも参加できる大会でありたい」と佐藤さんは願う。

「初回からやっていたことではありますが、障がいのある方にも積極的に参加していただきたい。日本の場合、マラソンや自転車のロードレースなど、障がいのある方が参加する時は事前に連絡をするとほとんどが断られてしまう現状がある。これはサポートするための施設が整っていないからだと思います。ただ我々としては、障がいに合わせてサポートできることはしたいし、そのチャレンジ精神を応援したい。本当の意味で、誰でも参加できる大会でありたい」

2018年、SEA TO SUMMITは「パラチャレンジ」という言葉を作った。表立ってこういった発信をしないと、日本ではなかなか参加しにくい背景があるからだという。パラチャレンジで参加される方は毎回いるといい、松葉杖や車椅子でゴールされた方もいる。

「精神障がいのあるお子さんが参加されたとき、ゴールの山頂に立ったときの笑顔が素晴らしくて。達成感はみんなで共有できると強く感じました。モンベルの7つのミッションの最後に〈バリアフリー社会の実現〉がありますが、精神的な心のバリアを取っ払って、みんなで参加しましょうよ、という大会にこれからもしていきたいと思います」
写真提供:モンベル・茂田羽生

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「“入り口の扉を作るのは僕だけど、扉を開けるのは君たちだ”という、世界的なモータースポーツの『パリダカールラリー』の創始者が残した言葉があります。まさにSEA TO SUMMITもそんな存在でありたい。チャレンジしてみよう! という気持ちさえ持ってもらえたら、我々は全力でサポートしていきます」

アウトドアスポーツをきっかけに自然と人々の架け橋となり、地域に好循環を生んでいる。

SEA TO SUMMIT

写真提供:モンベル・茂田羽生

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