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2024.03.09 14:15

白雪姫が王子に幻滅する時。「蛙化の呪い」と「関係リセット症候群」

石井節子

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昨今、「蛙化」といわれる心象の動きを体験する若者たちが増えているという。「恋愛が成就した途端、とつぜん、好意を抱いていたはずの相手に嫌悪感を覚える」という現象だ。

では、現代の白雪姫たちはなぜ王子にたやすく幻滅するのか──。

以下は、現役大学生であるForbes JAPAN編集部スチューデント・エディターによる寄稿である。

王子の口づけを待つ白雪姫たち

白雪姫はカエルのキスで目を覚ますだろうか。

毒リンゴを食べて呪いにかかり、ガラスの棺で眠る白雪姫。王子様の優しい口づけで呪いは解け、彼女は長い眠りから目を覚ます──これは誰もが知る『白雪姫』のラストシーンである。

だが、白馬の王子を待つのは白雪姫だけではない。

「クリスマスまでに彼氏が欲しい」「結婚して幸せになりたい」。現代においても多くの白雪姫が王子の口づけを待っている。

しかしその一方で、「自分は恋愛ができないのではないか」「このままでは一生結婚できないのではないか」と、一向に王子が現れないことに焦りを覚えている女性たちが世に多いのも事実だ。

その原因の一つともいえるのが、若者間で口にされることも多くなった「蛙化」現象である。この現象は女性に多くみられるという。

元来の「蛙化」、現代の「蛙化」

突然ではあるが、現在若者に使われている「蛙化」と本来の「蛙化」の意味が若干異なることはご存じだろうか。

本来が「自分が好意を抱いている相手が振り返ってくれた途端、急に好意が嫌悪感に変わる」という意味合いであったのに対し、現在若者の間では、「自分が好意を抱いている相手の些細な行動によって、急に想いが冷める」という意味合いで使われる。

元来の「蛙化」は主に「自己肯定感が低い」ことがトリガーとなっていた。

「こんなに価値のない私を好きになるなんて、この子、大したことないんだな」

私の友人は、好意を寄せていた相手からの好意を感じた瞬間、このように感じてしまったという。

一方、現在の「蛙化」は「相手の必死感」がどうもトリガーのように思える。

実際に友人にアンケートをとり、「蛙化」してしまった瞬間を聞いてみた。

・ICカードの残額不足で改札で引っかかる

・レストランで長いメニューを全て読む(「ふわふわとろーり卵のオムライスください」ではなく「オムライスください」が良いそうだ)

・電車でつり革を持ちながらよろめく

・自転車を全速力でこいでいる

・店で店員を必死に読んでいるが気づかれずに何度も呼ぶ

 もちろん、アンケートでは店員への態度が悪い、食べ方が汚いなどの相手の問題に思える項目も見受けられたが、このように日常の何気ない項目が多いような気がする。
gettyimages/SetsukoN

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もとをたどれば、蛙化現象は、跡見学園女子大学の藤沢伸介教授が2004年に日本心理学会大会で発表した論文『女子が恋愛過程で遭遇する蛙化現象』の中で名づけたことが始まりであった。

そんな2004年から約20年経過し、「現代用語の基礎知識選 2023ユーキャン新語・流行語大賞」のTOP10にノミネートするほど一般概念化した蛙化現象。近年になって蛙化現象というワードが注目するようになったことに何か理由はあるのだろうか。

「高速化」し「リセット」できる人間関係

ここで挙げられるのが、SNS普及に伴う、「高速化」し「リセット」できる人間関係であろう。

人間関係の「高速化」

近年になって普及し始めたSNSの一つにマッチングアプリがある。どのような関係性に発展するか、という点において「無限の選択肢」を持つ一般の人間関係と異なり、マッチングアプリは、初めから関係の終着点が「恋人関係」に定められている。つまり2者の間の関係の目標は一致するため、通常の関係より早く恋人関係に至るケースが多い。私の友人間では、会ったその日に付き合ったという話も珍しいものではない。

本来であれば、人間関係は相手の事を知りながら次第に構築していくものである。しかし、そのように築いた迅速な人間関係では、相手を知りえているはずもなく、そこに存在しているのは相手への「理想」という名の「虚像」である。

そのような虚像は、根拠もないため脆弱だ。よってささいな現実で、乖離が露見し、蛙化が起こってしまうのである。

 「リセット」できる人間関係

「人間関係リセット症候群」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。

人間関係リセット症候群は、「症候群」とあるが病名ではなく、SNSや連絡先などを削除して何度も人間関係をリセットする人のことを指した言葉である。

現在、私たちは実際に会って会話するよりも、おそらくSNSで会話する場合の方が多く、そのSNSはアイコンや名前、使用者がその人間であるといっても、一つの「データ」に過ぎない。

マッチングアプリなどはその傾向がもっと顕著である。年収、身長、学歴、写真などの「データ」から、利用者は秒単位でその人間を判断していく。

このように人間を一種のデータとしてみるようになった現代では、人間関係上で困難に直面した際、連絡先を削除・ブロックして向き合わずに関係性を終わらせてしまうことが多い。

そのような、向き合わなかったことによる「人間関係の未熟さ」は、他人への理解を乏しくするため、些細な行動に目が付き、恋人として許せなかったりするのではないだろうか。

実際に蛙化現象は、一定の人間関係を経験した大人には起こりにくく、若者の間でよくみられる現象であるという。また恋人という関係、付き合いも長く、何度も向き合ってきた家族が、上記の蛙化行動を起こしたとしても私たちはきっと何も思わないはずである。

棺で王子を待つ白雪姫たちへ


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では最後に、全国の白雪姫たちにメッセージを送りたい。

白雪姫はカエルのキスで目を覚ますだろうか。いや、きっと目は覚めないだろう。

 しかし、もう一度そのカエルをよく見てほしい。そのカエルは本当にカエルだろうか?

もしかすると、そのカエルはあなたに「蛙化の呪い」をかけられてしまったあなたの「王子」かもしれない。あなたが待っている王子は、既にあなたの傍にいるかもしれないのである。

その事実に気付けない限り、白雪姫はガラスの棺で眠り続けることになる。まさか、自分を呪いから解き放ち、ハッピーエンドをもたらしてくれる王子に自らが呪いをかけてしまっていることも知らないまま。

文=大石月子(Forbes JAPANスチューデント・エディター、慶應義塾大学3年生) 編集=石井節子

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