前述したように、韓国では日韓戦があると、韓国人が日本を応援することは不可能に近い。他の国には負けても日本にだけは勝ってほしいと思う人たちがたくさんいるからだ。人生において勝ち負けがはっきりしているのがスポーツ試合だからか、とにかく試合で韓国選手(またはチーム)が日本に負けると、とにかく選手たちに辛く当たるのが韓国人なのだ(最近は少し和らいでいるが)。
こうした理由から、日本のスポーツ選手を「好き」と堂々と言うのは難しい。しかし、大谷選手に対しては、堂々と「好き」だと表現できるのだ。
理由の1つは、大谷選手が韓国に対して友好的な態度を示しているからだ。
大谷選手は、ソウル開幕シリーズ直前、SNSに韓国に対する愛情を示すような写真をいくつか投稿した。訪韓直前、韓国の国旗である太極旗の絵文字と一緒に指ハートをした写真を投稿したり、また妻や通訳の水原一平さんたちと一緒に撮った写真に「待ち遠しい」とハングルで書きこんでいる。
また、3月16日の記者会見でも「韓国は最も好きな国の1つだ。韓国でプレイできてとても嬉しい。韓国のファンの前でプレイするのが楽しみだ」「韓国で試合するのを楽しみにしていた。韓国に来る1週間前から楽しみだった。韓国のファンたちから歓迎されて、とても嬉しかった」と韓国に対する親愛の情を示した。
大谷選手に対する好感の理由
もちろん、韓国を「好き」と言ってくれるからという理由だけではない。韓国人は有名なスポーツ選手や芸能人に対して、「公人」としての品格や礼儀正しさ、清廉潔白、品行方正、さらには頭の良さを求める。
大谷選手が高校生のときに書いた「目標達成シート」は韓国でも有名であり、彼に関する本も出版されている。100年に1人(ベーブ・ルース以来)といわれるほど珍しい二刀流をこなし、野球漫画を地でいくような選手で、スポーツ界ではトップクラスの報酬を獲得しているのにもかかわらず驕らない。それらに好感を持つわけだ。
韓国では、「マンチッナム(直訳は漫画を破る男)」という造語があり、それは「漫画のなかの主人公を地で行くような男性」を意味する。主にイケメンの主人公に対して使う言葉だ。
韓国のマスコミではしきりに大谷選手を「ウェブトゥーン(縦スクロールで読めるデジタルコミック)から出てきた男」と称賛している。
3月17日、ソウルのコチョクスカイドームで開かれたロサンゼルス・ドジャースとKBOリーグのキウムの、米国プロ野球メジャーリーグ(MLB)ソウルシリーズで最も人気だったのも、断然、大谷選手だった。
ドームのなかはもちろん、球場外でも大谷選手の背番号である「17」番のドジャースのユニフォームを着たファンであふれかえっていた。ドジャースと開幕戦を戦うサンディエゴ・パドレスのグッズを販売する店には、大谷選手のユニフォームを買おうとするファンでいっぱいだった。
17日の試合では、2打席とも三振で残念な成績だったが、1万4000人の観客が同時に嘆息を漏らすほどの反響もあった。
一般のファンたちだけではない。韓国の野球チームの監督もサインをもらおうとしたりしていたし、韓国人選手たちも「結婚おめでとう」と祝福の言葉を言ったりしていたり、この世界的な「スーパースター」に対してリスペクトを示していた。
とにかく、これほど和やかに日本の選手を応援できるということがとても平和で、そしてこれが大谷選手マジックではないだろうか。