「自分からは出てこない」の連続
──今回のコラボレーションならではの面白さとは。皆さん普段の研究や作品制作と異なる部分はありましたか。和田:コラボしたマイカさんは、作品制作期間に長島愛生園(国立ハンセン病療養所)でお子さんを含むご家族で時間を過ごされたんですが、お子さんと療養所の皆さんとの出会いやマイカさん自身の経験から音楽が生まれて。
その音楽が完成した時に、「こういう昇華のさせ方があるんだ」と思いましたし、音楽だからこそ、アーティストだからこそできることがあると実感しました。研究というアプローチには何ができるのかを、あらためて考える機会にもなりました。
あとは、生まれた楽曲を私やKeikenのみなさんが聞き、その中に出てきた「火」や「お焚き上げ」といったキーワードにインスピレーションを受けて自分たちの制作に反映させる、といった場面もありました。こうしたコラボの枠を超えた交流も、今回のプロセスの良さだったと思います。
岡田:研究やフィールドで起きていることを楽曲に昇華していくプロセスや実践にとても感銘を受けました。Keikenさんとは、ゲームを起点に制作が進んでいますよね。
和田:最終的にどのような形に落とし込むかはまだわかりませんが、彼女たちが制作している「Morphographic Angels」というゲームの続きを、一緒に議論しながら考える機会がありました。
Keikenのみなさんはそれぞれにディアスポラの背景を持っていて、彼女たちの作るゲームにもその経験が反映されています。仮想の精神世界をプレイヤーが探索するゲームで、自らのエネルギーを放出したり、他者と言語を交換したりするシーンが出てくるのですが、そのプレイ体験がまさに「内言」的であり、「生きているという実感」と接続する感覚があるんです。
うまく言えませんが、私が普段手話通訳をしたり、内言や身体言語について研究したりするなかで見ている感覚の風景と、彼女たちがフィクションの中に生み出そうとしている風景とが、なぜか繋がっているように感じられて。今まで自分なりに考えたり、伝え方を模索したりしてきたことについて、ゲームを通じてこんな風に表現できるんだという発見がありました。
木原:自分たちの場合は1対1だったこともあって、お互いにアイデアを打ち返し合うプロセスが濃密で面白かったですね。山田先生の著書を読んで、面白かった箇所をもとにゲームのアイデアを4つほど作って投げかけると、関係のありそうな山田さんの本や論文が、先生から送られてくるんです。それを読むたびに制作の具体的なインスピレーションが得られて最高でした。
もちろん論文などのレコメンドだけでなく、アイデアによるフィードバックもたくさんいただけました。途中で作って没になった案のなかに、カメラで人の顔の画像からリアルタイムで表情を解析し、その感情に応じて課金する装置がありました。
当初は、それを使って「喜んだり、笑ったりすると課金されてしまう部屋」を作り、鑑賞者には感情が資本化されすぎた未来を体験してもらおうかなと思っていました。早速このアイデアを山田先生にぶつけてみると、やりとりのなかで「感情税」や「感情破産」みたいなユニークな概念が次々に生まれてきたんです。自分からはまず出てこない発想で、面白かったです。
岡田:こうした研究者とアーティストによる議論のプロセスも非常に貴重なもので、イベント当日は制作の裏側について語るトークセッションの時間を設けています。実は、木原さんの最終的な作品はまた少し異なる方向性になりそうですよね。
木原:途中でちょっと方向性が変わって、最終的には会話シミュレーションゲームのような形になりました。まだ詳しくは言えないのですが、面白いものになっているのでぜひ会場に体験しにきていただけると嬉しいです。