マサチューセッツ工科大学のメディアラボから生まれたスタートアップ、Augmentalが開発した「MouthPad^(以下、マウスパッド)」は舌でデジタル機器を操作できるデバイス。同社のプレスリリースで「舌を11本目の指にする」というコンセプトを掲げる。
2023年4月に発表されるとその斬新な発想が評価され、同年6月に開催された世界最大の広告祭「カンヌライオンズ」ではイノベーション部門でグランプリを受賞した。2024年1月に開催されたテクノロジーの祭典、CES 2024で行われたCTA(全米民生技術協会・Consumer Technology Associationの略)のヘルステックピッチコンテストでも、Augmentalはグランプリを獲得。同製品は評判を呼び、ウェイティングリストには約2700名が登録している(2024年3月1日時点)。
透明なマウスピース型をしたマウスパッドの本体中央には、舌の位置と圧力を感知するセンサーやマイクロプロセッサを搭載。ユーザーはマウスパッドを上顎にはめ、舌先でマウスパッドをなぞることにより、Bluetoothでスマートフォンやタブレット、パソコンなどを操作できるほか、Amazon EchoやGoogle Homeなどのスマートデバイス、AR・VR機器もコントロールできる。
マウスパッドはもともと、両手に障がいがある人々に向けて開発された。従来、障がいがある人々がデジタル機器を操作する方法としては、音声入力や口に咥えて使うタイプのコントローラーなどがあった。しかし、前者には正しく音声が認識されなかったり、コマンドが周囲に聞こえてしまうという問題があり、後者にはユーザーが操作することで疲れたり、歯を損傷し、失うリスクもあった。
Augmentalではそうした課題を解決するべくマウスパッドを開発していたが、その過程で同製品が両手に障害がある人々だけでなく、すべての人々のデジタルアクセスを向上させる可能性をもつことを見出した。
例えば先述の料理や育児で両手が塞がっているときはもちろん、ゲームをプレイする時に両手でコントローラーを操作しながら、舌でマウスパッドをクリックし、敵に新たな一撃を加えたりといった使い方も可能だ。
さらに、マウスパッドは業務でも活用されている。オフィスワーカーが表計算ソフトを操作する時、手の腱鞘炎を防ぐためにマウスパッドを使用したり、外科医が両手で手術を進めながら、マウスパッドで手術用ディスプレイを操作するといった使い方も。さらに、研究者は有毒物質がついた手袋をはめたままマウスパッドで研究機器を操作し、手袋を外す時間を節約しているという。
Augmentalの共同創業者であるコーテン・シンガーは「私たちは誰であろうと、何をしていようと、テクノロジーを最大限活用できるようにすることを目指している」と説明する。そしてエンジニアリング・リードのジュリアン・カステリョンは「私たちは人間をアシストするだけでなく、テクノロジーで人間の進化を変えられると信じている」と意気込みを語る。
Augmentalはすでに同社があるカリフォルニア州の顧客にマウスパッドの提供を開始しており、2024年夏までにはカリフォルニア州以外の顧客にも提供を始める予定だという。障がいがある人々だけでなく、あらゆる人々のデジタルアクセスをより自由にする。舌を使った革新的なデバイスは、市場に新たな価値を生み出した。