映画を撮るより、メディアやSNS露出の影響力
Forbes JAPAN執行役員・Web編集長 谷本有香(以下、谷本):本日モデレーターを務めさせていただきますForbesJAPANの谷本有香と申します。まさかこの会場に是枝監督が来て頂けるなんて!と、一番私がびっくりしているかもしれません。監督に沢山伺いたい事があります。まずは、ご近況について、お話いただけますでしょうか?是枝裕和(以下、是枝):年末までは、ドラマ撮影に没頭しておりました。全7話のドラマで、今は毎日その編集作業に入っています。今朝も朝10時に事務所に行って、昼まで編集。その後、別件の打ち合わせで出版社へ。それから今、この会場に来ましたら、観客数の多さにびっくりしたところです(笑)。イベント終了後は、事務所に戻り、再び編集作業に入ります。今日は、夜中12時過ぎまで編集をする事になるかな、という感じです。
そんな日々ですが、「怪物」が、今、海外で公開中なので、2月には、韓国や香港に行って、上映に立ちあいます。海外との行き来も大切な仕事なのです。
谷本:先程の控え室でお話を伺っている中で、感じたのですが、是枝監督に挨拶させて頂く方が全員「是枝監督ファンです」っておっしゃっていましたよね。その「ファン」という言葉って、とても便利な言葉だと思っていて。熱烈なファン層が、国によってこんな風に違うとか、ファン層が時代によって変わってきているとか、ありますか?
是枝:直近のエピソードをお話しますと。「矢口書店」という映画演劇の専門書店で古本を選んでいたら、中国の方から、声を掛けられました。片言の英語で喋りましたけど(笑)。その方は、自分の初映画を撮り、出来上がって日本に来ているから、僕にリンクに送りたいので、アドレスを教えてくれって言われて、伝えました。
世界中の多くの方に観ていただけるようになったのは、この10年ぐらいです。そんな変化を感じたのは、「TSUTAYA」でした。映画好きから声を掛けられる事が増えて「(世界の果てまで)『イッテQ』に出てた人だよ」とランドセルを背負った小学生に指をさされたり。『万引き家族』以降は、街中で普通に歩いていて、「映画観ました」と言ってもらえたり。
そこで感じたのは、映画を撮るよりも、メディアやSNSに出た方が、子供達には影響力があるんだな、という事。映画そのものではないところでの露出が増えたので、色々背負うものも増えてはいるんですけれども。
しかしながら、私は、あくまで映画監督。映画を広く愛して欲しいと考えながら露出を考えています。
谷本:そういう意味では、監督のファンが増え、人気が出ていくなかで、批評が聞こえづらくなったりすることはあるのでしょうか。
是枝:批評があっても、全ての方々が僕の作品を絶賛してるわけではないので、周りの批評を気にしてどうこうって事は、もうないかな。僕自身、映画を撮り始めて、30年近く経つので俯瞰で見られるようになった。ただ、自分の中で何が出来て何が出来なかったのかというのは、きちんと分析します。次回作に向けた宿題を自身に課する為に。
海外のファンの方は特に僕のことを「家族の作家」だと思われているので、映画の中で、家族のあり様を描いた時に「これこそが是枝さんの作品ですね」と、喜ばれるんです。ところが、僕が家族の物語ではないものを作った時、逆にすごく違和感を持たれる方も多い。僕自身は家族を描く監督だと自分で宣言した事もないんですけど(笑)。今の関心は、家族をテーマとした作品以外にも広がっているので、今後は、新しい題材にも着目しています。