すべての原因は、イランの支援を受けたイスラム組織ハマスのテロリストが昨年10月7日、イスラエルに奇襲をかけて多数のイスラエル人を殺害したことに端を発する戦争だ。ハマスの奇襲は第二次世界大戦におけるホロコースト以来のユダヤ人虐殺といわれた。
それから数週間のうちに、イスラエルはパレスチナ自治区ガザ地区に侵攻して戦火は拡大し、たちまち紅海にも飛び火した。アラビア半島とアフリカ大陸に挟まれた紅海は、スエズ運河への入り口だ。スエズ運河を通るには紅海を経由するほかなく、世界貿易の約12%がこのルートを利用する。
だが、米国やフランス、ドイツなど多くの西側民主主義国がイスラエル側についたことが明らかになると、紅海に面するイエメンを拠点とする親イラン武装組織フーシ派が、スエズ運河に向かう商船を攻撃し始めた。
そこに問題がある。海運世界最大手のマースクが、紅海・スエズ運河航路を回避してアフリカ・喜望峰回りのルートを取ると発表したからだ。
アラビア海から紅海とスエズ運河を経由してオランダ・ロッテルダムまでの航行には、通常19日間を要する。一方、アラビア海からアフリカをぐるりと迂回する航路だと、米エネルギー情報局(EIA)によれば通常34日間、つまり紅海・スエズ運河ルートのほぼ倍の日数がかかる。ロッテルダムは北海を挟んで英国の真向かいに位置する。
迂回航路は、欧州の買い手に商品を届けるのに何倍もの時間がかかることを意味する。特に英国が受ける影響は大きい。というのも、英国経済は80%をサービス業が占め、国内生産品はほとんどないからだ。
問題は輸送日数にとどまらない。輸送費用も高くつく。商船の予約は通常、1日あたりの運賃で行われる。輸送日数が長くなるほど、費用がかかるのだ。加えて、ソマリアの海賊による攻撃が昨今相次いだことで保険料も値上がりしている。
こうした余計なコストと輸送の遅延は、英国企業に打撃を与えている。コスト増と輸送遅延はどの業界でも困りものだが、2四半期連続で経済がマイナス成長だった状況下ではとりわけ痛手となる。
しかし、さらに悪い事態が待ち構えている。英公共放送BBCは、英国最大の紅茶ブランドの一つであるテトリーが現在厳しい状況にあると報じている。
これはもう英国経済そのものへの攻撃といっていいだろう。英ティー・アンド・インフュージョンズ・アソシエーションによると、英国では毎日カップ約1億杯もの紅茶が飲まれている。一方、食品・飲料大手ネスレによれば英国人のコーヒーの消費量は1日9500万杯だ。英国人は実に紅茶好きだ。
英国で紅茶が不足すれば、国家の危機に近い事態になることはほぼ確実だ。
(forbes.com 原文)