さらに、竹取物語をモチーフに、古紙と間伐材からできる森林循環紙を使用した画期的なパッケージは国内外で数々の広告賞を受賞。誰も知らなかった地方の小さな箸工場は大きな注目を集め、ミシュラン1ツ星レストランや国内外に店舗を持つ飲食チェーンから取引依頼が殺到した。現在、ヤマチクの箸を扱う取引先は全国で約250店舗。5年前、0%だった売上の自社製品率は60%を占めるように。
循環可能な地域づくりのため、竹の箸を造り続ける
コロナ禍では、OEM受注のほとんどがストップしてしまい、苦しい思いもしたと振り返る山崎さん。だが、ヤマチクは箸を造る手を止めなかった。「僕たちには国から休業補償が出ますが、竹を切る職人さんたちには出ません。高齢化も進んでいるので、安定的に仕入れを続けなければ、辞めてしまう人も出たでしょう。仕入れができなければ箸は造れませんから、需要があっても製造ができなくなります。竹の箸を使う文化自体がなくなってしまうかもしれない」地域の生業と文化を失うわけにはいかない。今は在庫を増やすとき、と決め、製造を続けた山崎さん。OEMとは逆に、送料無料でおうち時間を応援した自社ECはグッと業績を伸ばした。さらに、社員旅行用の予算を賞金に、社内を対象としたデザインコンぺを始めたのもコロナ禍でのことだ。
「キャリア不問、社員なら誰でも参加OKです。当時、最優秀賞は10万円(現在は15万円)。商品に採用されると2万円に設定し、誰でも参加できるコンペを始めました。そこから生まれたのが「納豆のためのお箸」や「きずな箸」といった大ヒット商品です。賞金は、すぐに売上で回収できてしまいました(笑)」
第2回の最優秀賞を受賞したのは新卒2年目の社員だったんですよ、と嬉しそうに教えてくれた山崎さん。工場には10代、20代の若手社員の姿も少なくない。「地元の高校は廃校になり、南関町の子どもたちは中学校を卒業すると町外に出ざるを得ません。町外や県外の友人に、お前の地元って何があるの? と聞かれたとき、ヤマチクがあるよと胸を張れる、自慢できるような企業になるのが夢なんです。もちろん、若者が町に戻ってきたいと思ったとき、ワクワクしながら働けるような雇用の受け皿になれたらという思いもあります」