その後ターゲットは国内メーカーが台頭し輸入量は漸減したが、その頃までには同社は顧客の要請に応えて受託成膜やパターニングのサービスを開始していた。半導体プロセスでは、量産を開始する前にガスやパワー出力など最適条件を見つけるための試作が必要だが、手間と時間がかかるためこれを大企業の量産装置で行うことは非効率だ。しかし同社は成膜に関する知見の蓄積があるため非常に効率的に行うことができる。
現在はこれが同社の主力事業であり、成膜・フォトリソ・エッチングなどのプロセス、国内・海外のサプライヤーをも巻き込んだその体制は世界的にもオンリーワンの存在だ。
既存技術の強みを生かす方法
さらにこの成膜技術を転用してマイクロ流体チップやMEMSデバイス、IoTデバイスなどの開発も行っているが、半導体分野で使われる技術を生体、畜産・酪農分野に応用するものでありアプリケーション開発の点で同社の強みを活用している。また一口に既存技術を新たな分野へ転用と言ってもそう容易なわけもなく、例えばマイクロ流体チップの開発では自社だけでは解決できない課題を解決するために産学連携のパートナーを必死で探した。ようやく出会ったのが当時准教授だった東京大学の藤井輝夫先生(現総長)であり、川崎市の支援も得て新たな事業を確立させている。
文章としてまとまりがないように感じるのは書き手の問題もあるが、同社の事業は、確かにまとまりがない。まとまりがないようで切れ目なくつながっている。そこには貫くものがある。
新しいものや珍しいものに対する探究心、人との出会いを大切にし、情報収集によって目利き力をつけ、チャンスを逃さず果敢に攻める。道なき道を進み、道の無いところに道をつくる。その枠にとらわれない姿勢が創業時から一貫している。
池田謙伸社長によると、こんな組織文化があるという。「成功も失敗も自信につながります。これができたんだからこっちもできる。あんな経験をしたから次はもっとうまくいく、そんな思いが自信となって社内で連鎖しています」。
「新人ががんばってくれてミシュランの星付きラーメン屋さんにダシ用生ハムの受注が決まったので、今日は担当社員を表彰したんです」ということも、うれしそうに教えてくれた。
せっかくの機会なので池田社長にお勧めの生ハムも教えてもらった。「スロベニアの生ハムです。スロベニアは人口205万人の小さな国、生産量が多くないためこれまであまり日本では紹介されてきませんでしたが大変豊かな食文化があります。生ハムの魅力をイタリアはフレッシュさ、スペインは味わいやコクとするならば、この両者の良いところを掛け合わせたのがスロベニアハムです。その秘密はかすかなスモークによるマリアージュです」とのこと。社長自ら現地に足を運び、生産者と直に会って信頼関係を構築している。
枡野浩一さんの「私には才能がある気がします それは勇気のようなものです」という短歌を思い出す。目まぐるしい変化の時代を逞しく生き抜くには、想定外や未知に挑み続ける勇気が重要と感じた。