ところが、今回の広報業務はそうではない。はっきり言うと、珠洲市側も最初は神戸市の職員が役に立つのか、疑心暗鬼であったにちがいない。
だが、LINEのメニューが変更され、LINE投稿の背後データである開封率を分析して投稿。すると、住民からは欲しい情報が来たと感謝されるので、珠洲市側の職員の気持ちにも変化があったのだ。派遣された職員は次のように話す。
「初日は我々に一体何ができるのだという雰囲気でしたが、3日経てばお互いの間にあった壁がなくなったように感じました」と派遣された職員は話す。
神戸市職員に受け継がれている経験
また、被災者への支援情報をまとめたパンフレットをつくって、避難所の住民たちに届けようという話が、珠洲市役所で浮上。住宅被害を公的に証明する罹災証明を手にすると、住宅再建のための支援金や義援金が受け取れる。その見通しを被災者に届けて、少しでも前を向いてもらいたかったからなのだろう。すると、珠洲市の副市長から直々に神戸市の職員にパンフレットを作成してほしいと依頼があったという。
ここまで信頼してもらえれば話は早い。珠洲市に駐在する神戸市の職員が、珠洲の各部局から情報を手に入れて神戸側に送る。すると、デザイナーたちがデザインして、広報紙担当が記事をつくる。詳しい情報はウェブに掲載するので、ホームページ担当が珠洲市のサイトを素早く更新したのだ。
完成まで2日。神戸市から送られたパンフレットのデータで、3500部が珠洲市役所で印刷されると、自衛隊の手を借りて、約90カ所の避難所の被災者たちに届けられた。
そして、いまでも珠洲市と神戸市の間では、毎日のようにウェブ会議が行われている。
珠洲では、いま避難所に大型ディスプレイを置いて、被災者が求める情報を表示する計画が進んでいる。LINEなど使わない高齢者には間違いなく役に立つ。
とはいえ、珠洲市にはこのようなディスプレイの活用事例がこれまでない。逆に神戸市は、すでに鉄道駅など計250カ所で同様のディスプレイを運用している。使用するデータ作成もお手のものだ。
いま珠洲の支援に携わっている職員たちは、阪神・淡路大震災のときに1人として神戸市役所には在籍していなかった。しかし、被災地からのSOSにこたえて、通常業務の優先順位を下げてでも、被災した人たちに尽している彼らや彼女たちを見ると、これがかつて大震災を経験した神戸市の職員に受け継がれているDNAなのかもしれないと思ったりする。