インパクト加重会計というゲームチェンジャー
──書箱の第3章で、「インパクト加重会計がゲームチェンジャーとなる」と書いていますね。セラフェイム:会計制度は企業の金融資本と物的資本を表しているが、社会の変化や企業の人的資本が反映されていない。企業が従業員のスキルやウェルビーイング(健康・幸福)、社会資本(インフラ)や環境、顧客のウェルビーイングに及ぼす影響が反映されていないのだ。
インパクト加重会計とは、従来の金融資本と物的資本に人的資本や社会資本、(森林などの)自然資本に対する影響を組み込み、従業員や願客、環境への影響も考えて企業の成功度を測る制度だ。組織の「取り組み」ではなく「結果」を評価するのが、インパクト加重会計だ。
全形態の資本に及ぼす影響が反映される会計制度を用いれば、ステークホルダーに及ぶ影響がプラスかマイナスかをみることで組織の成功度を判断でき、新業績評価システムの構築につながる。マイナスの影響を与えている企業は収益性が低いとみなされる一方、プラスの影響を与えている企業は収益性が高いと評価され、社会からの見返りを期待できる。だからこそ、インパクト加重会計はゲームチェンジャーなのだ。
──書籍を通して最も伝えたいことは、次の点だそうですね。「パーパスと利益の両立は可能であり、それは莫大な見返りをもたらし得る。ただし簡単ではなく、成功の保証もない」と。
セラフェイム:多くの人々は、善意だけで十分だと思っているが、実際には難業が待ち受けている。両立には甚大なリスクが伴い、多大なイノベーションや創意工夫が必要だ。パーパスと利益の両立を目指すビジネスリーダーは人の2倍努力し、巨大な障害を乗り越えねばならない。
──「本書の立ち位置」として、図でパーパスと利益をめぐる両極端の見方を示し、左端を従来のビジネス観、右端を夢物語としています。教授は、どちらの見方にもくみしないそうですね。
セラフェイム:パーパスと利益は対立し、マイナスの相関関係にあると考える人がいる一方で、両者は常に両立し、プラスの相関関係にあると考える人もいる。いずれも極端すぎる見方だ。
従来のビジネス観に必要なのは、世界は変化しており、パーパスと利益の相関関係はマイナスからプラスに変わりうるという認識だ。一方、夢物語的見方には、強力な経営陣や強固な企業統治なしにパーパスと利益の相関関係をプラスに変えることはできないという視点が必要だ。
道は険しいが、イノベーションを駆使して問題解決に情熱を傾ける人材や人的資本の豊富さが、私に大きな希望を与えてくれる。
ジョージ・セラフェイム◎ハーバード・ビジネス・スクールのチャールズ M. ウィリアムズ記念講座教授。米投資情報誌が「ESG投資で最も影響力をもつ人物のひとり」とする世界的権威。企業のパーパスやサステナビリティ、ESGの戦略・投資研究で数多くの受賞歴がある。