市場の小さい新興国をどう戦うか
そして11月初旬、審査員による審査会が行われた。浮かび上がってきた課題は、新興国市場への展開ハードルだ。今回、候補企業のなかには新興国に展開を進める企業が複数あった。「先進国ではどこも同じような食生活や生活習慣になるため、医療ニーズも似てくる」と中尾は言うが、転じて新興国では、国によって医療インフラの整備状況や必要な医療サービスが異なる。そのため、事業を横展開し、スケールアップすることが先進国に比べて困難だ。
また、製品が高額であれば医療機関が購入できず、遠隔医療を展開する場合でも、インターネット環境が未整備であれば難しい。新興国マーケットはそもそも小さいのだ。そのぶん、新興国に挑戦するのは社会的意義としては高い。最近は医療に限らず、経済的リターンと社会性両立を目指す「インパクトスタートアップ」が増えている。だが、黒字化に至らないという声はよく聞くことで、中尾も「社会性のある医療企業をどう支援するかは頻繁に議論される」と話す。
自社でできる工夫はどのようなものがあるのか。審査員からは次のようなことが挙げられた。まずは価格を下げることだ。「製品を100点の状態でなく、機能を落として価格を抑えるべき。走るという目的だけなら、ロールス・ロイスじゃなくてゴルフカートでもいいわけです」(中尾)。またサブスクリプションとして提供することで、導入ハードルを下げるというやり方も新興国には合うという。さらに「価格を下げるのに連動するかたちで『一家に一台』という一般家庭への普及を目指すことが、新興国で事業を成長させるうえで必要な戦略では」(上村)という示唆もあった。候補企業のなかには、ネット環境が悪くても利用できるよう、3G回線で対応できるシステムを構築している会社もあった。


今回、審査員に「最近の医療スタートアップの成功例」と言わしめたのが、グランプリに輝いた朝日サージカルロボティクスだ。同社は、腹腔鏡手術支援ロボット「ANSUR(アンサー)」を開発している。例えば、医師が臓器をもち上げる仕草をすると、ロボットのアームがそれに従って動く。ロボットが助手になるのだ。
