北米

2024.01.30 09:30

米国防総省が公式発表、米国の「工業衰退」は国防上の脅威に

Getty Images

米国防総省は2024年1月11日、初の国家防衛産業戦略(National Defense Industrial Strategy)報告書を発表した。軍備にとって最も重要な米国経済の原動力である「産業」を再び活性化させるための枠組みを提示した戦略だ。

同文書は、トランプ政権下で発表された一連の産業評価と極めてよく似たトーンで書かれている。前政権の最後の産業評価では、過去数十年にわたる米国の「漸進的な脱工業化」が、軍事的脆弱性につながったことが指摘されていた。

トランプ政権下の報告書は、これまでアジアへの移転が進んできた重要な生産能力を「再国内化」することを推奨していた。さらに、労働者のスキル向上、軍需品調達プロセスの刷新、民間セクターにおける革新的企業を、公共セクターにおけるリソースと提携させることなどを提言していた。

バイデン政権による防衛産業戦略も、同様のステップを数多く提唱しており、米国における産業基盤の弱さに対する懸念が表れている。こうした懸念は、世界的パンデミックと、その後のロシアによるウクライナ侵攻にともなうウクライナ軍への支援のなかで、さらに鮮明となった。

いずれの文書でも指摘されたのが、米国の商業的造船業の惨状だ。米国は、医薬品やレアアース、デジタル機器といった、あらゆるモノの供給を海運に依存しているにもかかわらず、商船の製造を実質的に停止している。

国防総省による新たな産業戦略は、造船業界の労働力は、商船造船所の消滅とともに著しく弱体化していると指摘している。原子力船の製造需要は高まっているが、そうした需要を満たすことを可能にする、経験豊富な労働者を見つけるのが困難になっているという。

米国内の2つの原子力船造船所における潜水艦製造は遅れている。原因として、労働力不足のほかに、同国内のサプライチェーンの脆弱さが挙げられている(国内サプライチェーンは、多数の「単一障害点(single points of failure:その単一箇所が働かないと、システム全体が障害となるような箇所)」を抱えている)。

造船業は、米国政府が自国における工業生産力の低下を許してきたことを裏づける甚だしい例だが、同様の問題は、防衛関連産業製品の生産に携わるすべてのセクターに見てとれる。

例えば、軍用機の素材として使える水準の高純度アルミニウムを生産する精錬所は国内に1つしかない。また、イラク戦争の際には、装甲トラック用のプレートを製造できる製鋼所が国内1カ所しかないことが判明した。

筆者のシンクタンク「Lexington Institute(レキシントン・インスティテュート)」と提携するFairbanks Morse Defense(フェアバンクス・モース・ディフェンス)は、米国軍艦を推進する巨大ディーゼルエンジンの製造を手がける防衛企業だが、かつて6社あった同様の製造企業は、いまや同社だけになってしまった。
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翻訳=的場知之/ガリレオ

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