健康

2024.01.29 14:15

乳がん患者の医療者がカフェをつくる理由 ミドルエイジ患者の本音を語ろう

抗がん剤治療開始から2週間後、激しい脱毛が始まった。浴室で夫の晶三さん(47)にバリカンで刈ってもらううち、晶三さんが妻の気持ちを思って泣き出し、二人で号泣したこともあった。

3カ月の抗がん剤治療が終わった2020年3月、家族で記念写真を撮った。晶三さんと、小学校2年だった長男・晴君に囲まれて、スキンヘッドの守口さんが花束を持ち、自信に満ちた表情で前を見つめている。もともと誕生日などに花束を贈り合っていた仲良し家族だが、このときは花屋さんに「元気が出る彩りで」と特にお願いした。

「由紀の治療が始まってから、生活がグレーっぽくなっていたので、明るい色を入れたかったんです」と晶三さんは笑う。
最初の抗がん剤治療が終わり、家族と記念撮影。髪が抜けても前を向くことができた

最初の抗がん剤治療が終わり、家族と記念撮影。髪が抜けても前を向くことができた

骨や肝臓へ転移も 心温まる息子の励まし

そこから、安定した状態が続いた。地毛が少しずつ伸びていくことが、希望の証しになった。患者としての自分ができることを考えるようになり、発信力を磨く勉強会などにも積極的に参加した。だが、昨年7月、骨や肝臓への転移が見つかり、パクリタキセルの再投与が決まった。

大学病院に入院した守口さんは、夏休みの初日、見舞いに来た晴君の頭にびっくりした。刈ったばかりの12ミリの坊主頭。晶三さんと相談して「今度はぼくが」と言い出したのだという。
2度目の抗がん剤治療が決まったとき、坊主頭になって見舞いにきた晴くんと

2度目の抗がん剤治療が決まったとき、坊主頭になって見舞いにきた晴くんと

2度目の脱毛を前に落ち込んでいた守口さんも「お母さんも早くハゲようよ」と言われて、じんわりと心が温かくなった。守口さんの発病後、晴君が野球クラブに入って練習に頑張り、晶三さんに支えられてまっすぐに育っていることが、何より嬉しかった。

昨年9月に名古屋市で開かれた「NPO地域共生を支える医療・介護・市民全国ネットワーク」の全国の集いでは、自身の体験を症例として発表し、患者の混乱や喪失感に医療者が丁寧にかかわることの大切さを訴えて、最優秀に選ばれた。

病院の仕事と治療の両立 患者カフェを開きたい

再発の判明から半年を経た今、パクリタキセルなどの効果が落ちてきて、次の抗がん剤治療に入る段階を迎えている。腕がむくむリンパ浮腫や蜂窩織炎にも苦しみ、病状は予断を許さないが、心の状態は告知のころよりもずっと安定しているという。病院の相談室長としての仕事と治療の両立を続けること、そして患者カフェを開くことが、今年の大きな目標だ。
 リンパ浮腫による右腕のむくみもつらい症状だ
リンパ浮腫による右腕のむくみもつらい症状だ
名称は「モリのサ店」と決めている。公共施設かレンタルスペースで、晶三さんにコーヒーを入れてもらったりしながら少人数のミドル世代で気軽に語り合い、たまには講師を呼んで勉強会も開く。
再発後、患者としての学びを深める機会が増えた

再発後、患者としての学びを深める機会が増えた

がん患者の集まりは数多いが、世代が異なると、関心領域が違ってくる。

守口さんの世代だと、ウイッグだけでなく、つめや皮膚の手入れ、メイクの仕方などアピアランスケアは大きな関心事。子どもに病状をどう伝えるか、隣近所やママ友にどこまで説明するか、職場の協力を得るためにどんな情報提供が必要かといった「カミングアウト」をめぐる悩みを抱く人も多い。高齢世代よりも社会や家庭とのかかわりが深い分、本人がつらく思う事情も多岐にわたる。


現役の医療者で患者の“二刀流”の自分なら、揺れ動く患者の気持ちに対しても、適切な支援がきっとできるのでは。「あとどれだけ生きられるか分からないけれど、自分にできることにこだわっていきたい」と守口さんは力を込めた。

文=安藤明夫

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