リーダーシップ

2024.01.26 13:30

私たちに必要な「Awe(オー)」の力とは

山崎:私自身は、伝統ある生け花の英知が経営学の最先端研究に通ずると考え、リーダーシップ教育に生かす活動を続けてきました。21年に「Why You Need to Protect Your Sense of Wonder— Especially Now(なぜ、今、あなたのセンス・オブ・ワンダーを守る必要があるのか)」というハーバード・ビジネス・レビューの記事を目にしました。

そのなかで、人はセンス・オブ・ワンダー(神秘などに触れて受ける感動)やAweを感じることで不安やストレスが減り、ウェルビーイングや思考能力、リーダーシップが向上するとされていたのです。一見すると仕事と関連しない趣味などにくくられそうなものが直接的に経営や実務に貢献するという点で、生け花と同じく、Aweにも関心をもち始めました。

また、ダッカー教授らが著した論文で説明されているのが、Aweのもたらす「スモール・セルフ・エフェクト」の効果です。人は自然など圧倒的に大きなものを目の前にして感動すると、相対的に自分のことを小さく感じます。その結果、謙虚になる。また、大きなものとつながりを得ることで、幸福度や他者への関心が高まり、新しい取り組みに対してオープンになるという研究もあります。

さらに、他論文でも、人はAweを感じることで倫理的な意思決定が増え寛容性が高まり、さらにプロソーシャル(他者・社会のための)な行動が増えるという結果が示されています。リーダーシップのとらえ方が変わりつつある今、このようなAweの研究はとても通ずる話だと感じます。

松本:『グッド・アンセスター』(ローマン・クルツナリック著、あすなろ書房)を翻訳して以降、「私たちはいかにしてよき祖先になれるか」という問いとともにリーダー向け研修をする機会が多くなりました。

そこでは、四半期といった目先ではなく、数十年、100年と時間軸を引き延ばして、自分のいなくなったあとの世界に目を向けて人生をとらえ直すことをリーダーに問うています。まさに「スモール・セルフ・エフェクト」なんですよね。アンセスターやAweとの遭遇が、はかりしれない圧倒的な時間と空間(の感覚)を今ここに呼び起こし、我が身をとらえ直すのです。

これまでは、自分たちの評価軸をもとに最適解を導き出すことが求められてきました。しかしAIが席巻すると、重要なのはむしろ「パターンや正解が崩れることを恐れずに、変化を受け入れ、新たな調和を迎えていく力」です。だからこそ、Aweのようなこれまでの「自分の物差し」が変わらざるをえないような感覚や瞬間が、これから大事になるのではないでしょうか。


やまざき・まゆか◎華道家、ハーバード・ビジネス・レビュー特任編集委員。マッキンゼー・アンド・カンパニーなどを経て、2017年より生け花の英知をビジネス界につなげる活動「IKERU」を開始。

まつもと・しょうけい◎産業僧、Ancestorist。Interbeing代表取締役。世界経済フォーラムYoung Global Leaders、日本政策投資銀行(DBJ)共創アドバイザリーボードなどを務める。東京大学哲学科卒、インド商科大学院(ISB)MBA取得。

文=加藤智朗

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年3月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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