カッツの提言のなかでもとくに説得力があるものの一つは、日本はM&A(合併・買収)活動への障害を減らすべきだというものだ。日本では「国内のM&Aの件数も、経営不振に陥った大手企業のために外国勢がホワイトナイト(友好的買収者)を名乗り出る例も大幅に増えている」にもかかわらず、「保護主義やナショナリズムの姿勢が依然として残っている」とカッツは指摘する。
自民党政権は「株式交換による三角合併の仕組みに関連した税制など、M&Aを煩雑にしたりその経費をかさませたりしているさまざまなルール」を見直す時期だとカッツは主張する。株式の持ち合いは以前に比べると減っているものの、「状況を完全に変えるほどではない」とみている。
さらに、労働人口が減少している日本では、生産性を高める措置が不可欠だともカッツは述べている。何世代にもわたる女性差別を克服する明確な政策によって、女性の就業率を大幅に高める取り組みもだ。
とはいえ、カッツの本のなかで岸田のチームがもっとも読みたい部分は、中国に関する箇所ではないか。安倍、そして岸田の大きな過ちは、日本が海上自衛隊や海上保安庁の艦船を増やし、防衛費を積み増せば、中国の習近平国家主席をけん制できると考えたことだ。だが、今日のアジアでは、国内総生産(GDP)を大きく成長させることのほうがはるかに重要だ。
「活力にあふれ、技術の進んだ国として、日本が企業や海外直接投資(FDI)、あるいはさまざまな自由貿易協定(FTA)を通じて地域でより大きな役割を果たすようになれば、日本は中国との経済的なパワーバランスを改善し、それによって中国はできることを制約され、以前のような「平和的台頭」に近い姿勢に戻る可能性も高まるかもしれない」とカッツは論じている。「日本はこれまで、経済的な苦難のためにアジアでの影響力を低下させ、その結果、中国に対するカウンターウエイトとしての役割も低下させている」とも指摘している。
過去数年の日本から、バフェットのバークシャー・ハサウェイや中国は恩恵にあずかった。一方、日本にとってこの期間は、かつて世界を驚嘆させたアニマル・スピリットを取り戻すうえで失われた時間になった。良いニュースは、カッツが詳しく説明しているように、日本には、軌道を修正する方法、ゾウを退場させ、ガゼルと駆け出していくための方法がいくつもあることだ。必要なのは、それをただ実行に移すことだけだ。
(forbes.com 原文)