AI

2024.01.22 08:00

来るべき「AI税の導入」を警戒すべき理由

日下部博一
2020

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英紙フィナンシャル・タイムズに最近掲載されたエッセイは、AI(人工知能)が引き起こすと予想される失業に対処するため、AI企業に特別な税を課すことを検討する時が来たと論じている。このような提案の背後にある意図は善意かもしれないが、現時点におけるAI税の導入は時期尚早であり、危険な先例を作ることにもなる。

まず第一に、AIによって大量の失業が発生するという予測は、憶測の域を出ていない。確かに、いくつかの研究では広範囲にわたる雇用の喪失が予測されてはいる。コンサルティング会社マッキンゼーのレポートでは、米国における現在の労働時間の30%が2030年までに自動化される可能性があると推定されている。国際通貨基金(IMF)によれば、世界中の労働者の約40%がAIの進出による影響を受けやすい職種に従事しているという。

だが、AIが一部の職業をなくすことは避けられない一方で、同時に新しい種類の仕事も生み出される。歴史が示すように、技術はしばしば、それによってなくなる仕事と同じかそれ以上の数の仕事を生み出す。通常、その新たに生み出される仕事は、それまでと異なる種類の、そしてより高収入の仕事となることが多い。例えば、AI企業では新たな役職や「プロンプトエンジニア」のような役割が出現する可能性が高く、AIシステム自体も人間による監視とメンテナンスが必要だ。AIはすべての労働者を置き換えるものではなく、仕事を拡大し、より価値の高い仕事に集中できるようにする。

一方、完全自動化(人間が意思決定から完全に切り離される)は、一般的に困難であり、費用対効果もほとんどみられない。AIによって置き換えられる仕事の範囲がもっとよく理解されるまでは、AI税の導入は早計だ。政策立案者は、税制を根底から覆すのではなく、AIが労働市場に実際にどのような影響を及ぼすかを見極め、必要であれば現場の状況に合わせて対応策を講じるべきだ。

これに関連し、AI経済へ「移行」するという仮説は、突然に起こる可能性もあれば、非常に緩やかに起こる可能性もある。急速な技術革新が極端に圧縮された時間の中で起こる「シンギュラリティ」に基づく短期間での移行が起きるなら、確かに労働市場にかなりの混乱をもたらす可能性がある。その場合、一部の労働者に対する何らかの調整支援が必要になるかもしれない。一方で、移行期間が長期にわたれば、労働力が適応するための十分な時間がとれることになる。
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翻訳=酒匂寛

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