堤達生の投資はいつも逆算から始まる。自身が思う「つくりたい未来」を先に定め、その世界を実現できそうな起業家を探していく。輝かしい経歴をもち、巨大マーケットを攻めようとする経営チームや、伸びていると話題の領域は、投資検討の入り口にはならないという。
「駆け出しのころは、そういう視点で多くの会社を訪ね、起業家を探しました。でも、うまくいかなくて。たどり着いたのが今のスタイルです」
ゆえに投資先は、まだ光の当たっていない領域と起業家になる。ファンドに出資するLP(リミテッド・パートナー)からも「ほかのファンドと、投資先がかぶりませんね」と声をかけられることが多い。堤にとっては、最高の褒め言葉だ。
堤の投資先で2023年3月に時価総額1069.7億円(初値ベース)でIPOしたVTuber事務所「ホロライブプロダクション」を運営するカバーも、ほかの投資家が目を向けていなかった原石だ。売り上げが順調に伸びていたシリーズBでも、なかなか資金が集まらず、国内トップティアVCは評価をしつつも、投資には至らなかった。
「VTuberは所詮サブカルという認識を超えられる投資家は、ほとんどいませんでしたね」
カバーに伴走し続けた堤の関心はVTuberそのものにはない。その先にある「バーチャルワールド」の実現こそが、投資理由だ。黎明期の17年、堤は国内のほぼすべてのVTuber事業者を訪れた後、投資を決めている。
堤はキャピタリストとして担当する案件では、必ず投資ラウンドのリードを取り、社外取締役に就任する。「リードを取れない場合、どうするか」と問うと「それなら、もういいやと思います。だって、僕じゃなくてもいいじゃないですか」とあっけらかんと答える。
「起業家が困ったとき、ファーストコールは必ず僕に欲しい。そういう存在でありたい」。投資方針に「究極のハンズオン」を掲げるSTRIVE。言葉を変えれば「究極の世話焼き」である。40歳でSTRIVEを立ち上げるまで、サイバーエージェントやリクルートで投資業務と同時に新規事業立ち上げを経験してきた堤は、なかなか成果が出ない、ゼロイチの苦しみを身に染みて知っている。だからこそ、リード投資家として、最後まで責任をもって起業家に寄り添いたい。たとえ、リターンが投資額の2、3倍程度であっても。それがファンドの代表パートナーとしての矜持だ。
堤の世界観の源泉は、哲学・歴史を起点にした「妄想」にある。大学の専攻は哲学。カバーへの投資で実現しようとしたバーチャルワールドは、1970・80年代のSF小説に、既に描かれている。オンライン本人確認サービスのTRUSTDOCKへの投資で目指したデジタルアイデンティティが担保された世界はフランス哲学者ジャック・アタリからヒントを得た。Web3スタートアップGaudiyが目指す未来は、経済学者フリードリヒ・ハイエクによる「貨幣発行自由化論」にしか思えなかった。「哲学や歴史をそのまま受け止めるのではなく、そこからヒントを得て、どう膨らませるかが大事なんです。まあ僕は、妄想好きなもので」
人間が想像できることを、人間はいつか必ず実現できる──未来への妄想と、起業家との連帯で、投資家・堤はこれからも世界をつくっていく。
つつみ・たつお◎STRIVE代表パートナー。三和総合研究所、グローバル・ブレインを経て、サイバーエージェント、リクルート、グリーにて、新規事業開発やCVCの設立・運用に従事。2014年に現STRIVEを設立。「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」2024年版ではキャピタルゲイン179億円(編集部推計)で2位に選出。