仮に米朝核軍縮交渉が実現すれば、北朝鮮の核・ミサイル問題はなし崩し状態に陥るだろう。そうなれば、日朝交渉の障害は形式的には取り除かれたことになる。北朝鮮の核とミサイルの脅威が消え去るわけではないから、日本にとって深刻な事態に直面することになるが、北朝鮮にしてみれば、「米朝で核軍縮交渉を始めるのだから、日本も並行して国交正常化交渉に応じるべきだ」という論理展開が可能になる。正恩氏の慰労メッセージはそのための環境整備の第一弾とみるべきだ。
北朝鮮は貧しい国で、強力な外交パワーも持ち合わせていない。ただ、国際情勢を詳細に読み込み、シミュレーションを何百回となくこなし、緻密な外交戦略を立てる点では、侮れない存在だ。全ての外交パワーを集中して、トランプ氏当選を前提にした戦略を立てることは、北朝鮮であれば十分にありうる話だと言える。年初からの相次ぐ軍事挑発も、韓国の尹錫悦政権を孤立させると同時に、バイデン政権の対北朝鮮政策の「失敗」を国際社会に印象づけるのが狙いだろう。ギリギリまで緊張を高めておけば、北朝鮮が例え核軍縮交渉であっても「対話による解決」を唱えた場合、その提案に飛びつく声が日米韓から上がることも見越している。
では、日本としてどう対応すべきなのか。北朝鮮の核開発が表面化してから30年もの間、北朝鮮の核開発を阻止しようとしてきた努力を放棄してよいわけがない。北朝鮮の核を事実上容認すれば、日本も非核三原則の見直しを迫られることにもなる。米大統領選の結果にとらわれず、韓国とともに「北朝鮮との核軍縮交渉は認められない」という主張をさらに強化すべきだ。
北朝鮮は慰労電に続き、日本に秋波を投げてくるはずだ。2月の女子サッカー・パリ五輪予選に続き、3月の男子ワールドカップ(W杯)アジア2次予選でも平壌で試合が行われる可能性がある。領事業務で日本政府関係者が随行すれば、北朝鮮はそこで接触を図ってくるだろう。情報収集は貴重だから、接触を拒む必要はないが、安易な妥協や期待は禁物だ。永田町では、正恩氏の慰労電に浮足立ち、早くも「この機会に人道支援を繰り出して、日朝協議を進めるべきだ」という声も上がっているという。北朝鮮のチャームオフェンシブに一喜一憂せず、日本の国益を見極めたうえで、先を読んだ外交が試されることになる。
過去記事はこちら>>