経済・社会

2023.12.10 11:00

孤立するG7、顎が上がるバイデン米政権、戦後秩序という地獄の釜の蓋は外れるのか

縄田 陽介

Bartolomiej Pietrzyk / Shutterstock

イスラム組織ハマスによるイスラエルの攻撃が始まってから2カ月が過ぎた。イスラエル軍はパレスチナ自治区ガザ地区を蹂躙し、パレスチナ人口の8割を占める180万人が難民と化している。イスラエルを糾弾する国際社会の声は高まる一方だ。戦後秩序をリードしてきた米国を始めとする主要7カ国(G7)はなすすべもない。日本政府関係者の証言をたどると、特にバイデン米政権の追い詰められた状況が浮かび上がる。

G7と日本政府の対応については緊迫するガザ情勢、反戦平和を掲げる日本外交の苦しみで紹介したが、「なぜG7議長国の日本が、自らが参加しないG7共同声明を認めたのか」について、納得できない点が多かった。改めて日本政府関係者に話を聞いたところ、「日本のミス」というよりも、「米国などG6の余裕のない状況」が原因だったようだ。

ハマスの侵攻直後、霞が関・永田町では「この問題には深入りしない方が良い」という空気が流れていたという。日本の場合、日米同盟の延長線でイスラエルと友好関係を維持する一方、平和外交やエネルギー外交の観点からパレスチナ・アラブ陣営との関係も重視してきたからだ。G7議長国として関与しないわけにはいかないが、首脳級ではなく外相級で関与することを基本線に据えたという。

G7陣営のなかでは米英仏独伊のG5が10月9日、イスラエルへの結束した支持を訴える首脳共同声明を発表した。日本政府もこの動きを「以前からあるイスラエル・パレスチナ問題に対応する枠組みの動きで、予測の範囲内」(政府関係者)と受け止めていたという。日本政府は「G7外相級で対応」という当初の方針通り、10月17日にG7外相電話会合を開催した。当然のことながら、立場の違いも出て、共同声明は出せなかったが、上川陽子外相が議長国として「G7の連携確認」など、協議の概要を対外的に公表する了承をとりつけた。

日本政府はこの時点で、「次は11月7、8両日に東京で開くG7外相会合」という目標を立てた。その前に、上川氏がイスラエルなどを訪問し、G7会合への足掛かりにする戦略も立てた。

ところが、日本を除いたG6首脳が10月22日、電話会談を行ったうえでイスラエルの自衛権を支持する共同声明を発表した。週末に突然起きた動きで、日本政府にとっては「寝耳に水」(関係者の1人)の動きだったという。日本政府が後に検証したところ、背後に二つの動きが働いていたことがわかった。ひとつは10月9日のG5声明に加わらなかったカナダによる働きかけだった。カナダもこの時点で自国民がハマスの人質になっていたため、国内から「政府は何をやっているんだ」という突き上げがあったという。松野博一官房長官は23日の記者会見で、G6による共同声明について「6カ国は、誘拐行方不明者などの犠牲者が発生しているとされる国々であります」と語った背景には、こうした伏線があったようだ。
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文=牧野愛博

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