経済・社会

2023.11.11 11:30

少子高齢化が進む韓国 立ち上がった老兵たち

縄田 陽介

11月3日、韓国・ソウル市南部の軍演習場で風変わりな訓練が行われた。貸与されたヘルメットと軍服、軍靴に身を包んだ集団が、射撃や市街地戦闘などの訓練を行った。有事に韓国軍で服務できるよう、体験入隊を目的とした訓練だったが、参加した19人の平均年齢は60代半ば。最年少は58歳で、最高齢は75歳。58歳と59歳の女性2人も含まれていた。この訓練は、極端な少子高齢化に苦しむ韓国の世相を映し出していた。

大半がソウル首都圏の居住者。日本に比べ、年金などの高齢者福祉制度が十分ではないため、それぞれが手に職を持っていた。58歳の女性は清掃業、最高齢の75歳の男性はタクシー運転手だ。働いていることもあり、動作は機敏だった。M16自動小銃と同じ型のレーザー銃を使って約2メートル離れたスクリーンに映し出される動く標的を狙う訓練では、次々に標的に命中させた。2組に分かれ、やはりレーザー銃と受光装置を使って行われた市街地戦闘もこなした。訓練場を管理する韓国軍関係者が「(軍への服務終了後8年間にかけて登録される)予備軍兵士と遜色ない」と驚くほどだったという。

韓国の独立法人「シニア・アーミー」が企画した。この団体は、少子高齢化時代のなか、高齢者も国家安保に貢献すべきだという考えのもと、2023年6月に結成された。団体関係者は「韓国軍の兵力は現在50万人だが。2040年には30万人程度になる。韓国軍も科学化や先端化を進めているが、130万人とも言われる北朝鮮軍との格差は大きい」と語る。韓国では、1人の女性が産む子どもの数を示す合計特殊出生率(2022年、暫定値)が0.78人になり、1970年以降の過去最低値を更新した。経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国で最下位の数値だ。1970年には100万人を超えていた出生数が、2022年は24万9千人にまで減った。

「シニア・アーミー」には誰でも加入できるが、特に中心メンバーの50歳から75歳までの男女が、有事に志願兵として加わることを目指している。同団体によれば、今年6月にこの年代の男女を対象にした電話調査の結果、事前登録を呼びかける運動に賛成する人が61.4%いた。また、57.3%が、有事に高齢者も志願兵として服務すべきだと回答したという。3日の訓練に参加した19人も口々に、「人口急減時代の今、私たちも国に貢献したい」と語っていたという。



「シニア・アーミー」は報道資料で「人口1億5千万人のロシアが、30万人の予備役を動員するのに苦労している。 逆に、人口900万人のイスラエルは、36万人の予備役の動員を命じ、志願者が列をつくっている。 予備役の年齢を超えた96歳と56歳も銃を手にした。有事の際、韓国はイスラエルを超える姿を見せるだろう。高齢者が自発的に準備しているからだ」と主張した。「 高齢者のトレーニングは、個人の健康管理、国家安全保障への貢献、社会医療費の削減という一石三鳥の効果ももたらす」とする。

「シニア・アーミー」の尹承模代表(60)は「韓国では、人口が減る時代が本格化する。国家安保のの面でシニア世代が若い世代と一緒に負担を分かち合うべきだ」と語る。現在の登録者数は300人だが、目標は100万人だという。来年前半には、韓国軍が新兵訓練として行っている、「20キロの背嚢を背負って20キロ行進」などの訓練も実施するという。尹代表は「登録者の大多数がシニア世代だ。私たちのこうした活動が、韓国の未来と安全保障の助けになると信じている」と語った。

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