経済・社会

2023.11.04 11:00

緊迫するガザ情勢、反戦平和を掲げる日本外交の苦しみ

縄田 陽介

Below the Sky / Shutterstock.com

緊迫するパレスチナ自治区ガザ地区の情勢を巡り、日本政府が東奔西走している。上川陽子外相は11月2日から5日にかけ、イスラエルとヨルダンを訪問する。外務省ホームページは「最近のガザ情勢を巡り,我が国は事態の早期沈静化と持続的な停戦合意を求めて,各国との会談や様々な働きかけを行っています」と説明。イスラム組織ハマスによる攻撃が始まった10月7日以降、岸田文雄首相はサウジアラビアやカタール、ヨルダンなどとの首脳電話会談を続けている。日本は今、主要7カ国(G7)議長国だ。東アジアだけではなく、世界の安全保障をリードしたいという思いがうかがえる。

だが、現実はそう甘くない。その象徴が、G7のうち、日本を除いたG6首脳が10月22日に発表した共同声明だった。声明は、イスラエルの自衛権を支持した。英米仏独伊の5カ国首脳は9日にもハマスの攻撃を非難し、イスラエルを支持する共同声明を発表している。松野博一官房長官は23日の記者会見で、G6による共同声明について様々な枠組みでの議論や立場表明の一つとしたうえで、「6カ国は、誘拐行方不明者などの犠牲者が発生しているとされる国々であります」と語った。そのまま読めば、「日本は犠牲者が発生していないので、この声明には加わらなかった」というようにも読める。

ただ、実情はそればかりではないようだ。日本は10月7日付で上川陽子外相の談話を発表した。談話はイスラエルの自衛権に言及していない。「ハマスは国ではないから、自衛権に言及するのは適当ではない」「イスラエルが過去、パレスチナに行ってきた強圧的な行為も考慮すべきだ」といった判断が働いたのかもしれない。専門家の1人は「単純に自衛権を認めると、攻撃に歯止めがかからなくなるという懸念があったのかもしれない」と語る。バランス外交という評価もできる一方、態度があいまいになったとも言える。

そもそも、日本はパレスチナ問題で一貫したバランス外交を心がけてきたと言えるだろうか。イスラエルは過去、「パレスチナ和平」に同意するとしつつ、ヨルダン川西岸地区で入植を進めるなど、事実上はパレスチナを排除する政策を推進してきた。日本は過去、こうしたイスラエルの行為を強く非難してきたとは言いがたい。背景には、イスラエルを支持する米国への配慮があった。日本の過去の姿勢を貫くのであれば、ハマスの攻撃直後には、堂々とイスラエル支持の論陣を張るのが自然な姿だった。専門家の1人は、日本がイスラエルの軍事力行使を明確に支持しない理由について「日本外交のDNAである反戦平和、絶対平和主義という思想が働いた結果だろう」と語る。
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文=牧野愛博

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