経済・社会

2023.12.10 11:00

孤立するG7、顎が上がるバイデン米政権、戦後秩序という地獄の釜の蓋は外れるのか

そしてもう一つが、バイデン政権による強い働きかけだった。米国はこの直前、バイデン大統領、ブリンケン国務長官、オースティン国防長官が相次いでイスラエルを訪問した。米国として一連の訪問の成果を確認し、国際社会の支持を取り付けたい思惑が強く働いた結果が、G6共同声明だったという。本来の米国なら、「中東問題だが、日本は議長国だし、仲間に入れよう」という発想が働きそうなものだが、ホワイトハウスや国務省のジャパン・ハンドとの調整が行われた形跡はなかった。日本政府関係者の1人は「それだけ、バイデン政権には余裕がない。勢いだけで突っ走っているという印象を強く持った」と語る。

米国・イスラエルは国際社会では少数派だ。これまでも、中東で騒乱が起きれば、米国が批判されるという構図が繰り返されてきた。さらに、今のバイデン政権は余裕がない。来秋の大統領選にばかり頭が行く。「イスラエルを支持しなければ、選挙が不利になる」という短絡的な思考を招き、結果的に米国内でもイスラエルを批判するデモが繰り返されるという悪循環を招いている。今の米国はまるで、ロバート・マクナマラ元国防長官が「一国の最も深いところに潜んでいる力は、軍事力ではなく、国民の団結力だ」と語ったような、ベトナム戦争末期のような雰囲気さえ漂わせている。

ロシアや中国は勢いづき、「米国の唱える法の支配は偽善だ」と触れて回っている。世界は「やったもの勝ち」になり、あちこちで衝突が起き始めている。アフリカのマリやニジェール、ブルキナファソではクーデターが相次ぎ発生した。旧ユーゴスラビアのコソボでは、アルバニア系住民とセルビア系住民の対立が先鋭化している。南米では、ベネズエラが、隣国ガイアナの3分の2を占める「エセキボ地域」を自国領とする動きを見せている。

まさに戦後秩序・法の支配の崩壊だ。ウクライナとガザでの戦乱は「戦後秩序」という蓋を外し、地獄の釜を開ける号砲になるのかもしれない。

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文=牧野愛博

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