拡張可能な軌道変更の仕組みはどこまで進んでいるか?
ミシェルによると、小惑星の軌道変更をより早い段階で実行するほど、進路を逸らすのに必要なエネルギーはより少なくて済む。だが現在のところ、DARTのような種類の被害抑止策を採用するには、最低でも10年以上前に天体衝突の事前警告を発する必要があるだろうとのこと。しかし、ミシェルによれば、政治家やメディアと、地球防衛を専門とする科学者との間には、意思の疎通が図れない状況がいまだにあるという。
これは、2021年のパニック映画『ドント・ルック・アップ』繰り返し登場するモチーフだ。
この映画では、地球が小惑星ではなく長周期彗星との衝突の危険にさらされるが、この問題に関する政治家やメディアと科学者とのやりとりが正確に描かれていると、ミシェルは指摘する。
信用できると思ってもらうことが非常に難しい、とミシェルは言う。この話題と関係ない2つのニュースのコーナーの間で、この複雑な問題を説明する時間が通常2分しかないからだ。問題なのは、科学的知識の全くない政治家たちに、自分の話を信じさせることだ。
少なくともNASAには、惑星防衛調整室という部署が設けられているが、例えばフランスのような多くの国では、地球防衛は主要な議題にはならないという。
ミシェルによると、『ドント・ルック・アップ』のような公転軌道が大きく傾いた彗星や、140m級の小惑星が予想外の軌道で地球に向かっており、その時点で2年以下の事前警告しかできない場合、唯一の選択肢は核になる。DART型の被害抑止策は単純に機能しないだろう、と彼は言う。
この問題に取り組んだ米ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)のチームは、専門誌The Planetary Science Journalに掲載された論文で、壊滅的な小惑星の衝突から地球を守る目的で核兵器を使用する可能性を新たに評価した。
LLNLによると、十分な警告を発することが可能な場合は、選択肢が2つある。1つ目の選択肢は、核爆発装置を爆発させて小惑星の進路を逸らす方法。小惑星を破壊せずに、地球に衝突しない軌道へと押しやる。2つ目の選択肢は、小惑星を完全に破壊し、高速で移動する小さな破片にして、地球に衝突しないようにする方法だ。
だが、衝突の可能性のある地球近傍天体を破壊するためにこのような方法を用いれば、多数の破片が地球に向かって真っすぐに飛んでくるだろうと、ミシェルは考えている。
だからなおのこと、さまざまな被害抑止策に磨きをかけておくべきだ。
小惑星は極めて複雑で、極めて多様性に富んでいると、ミシェルは表現している。地球に脅威を及ぼすおそれがある天体には、実際に対処を試みる際に効率的に実行できるように、訓練目的でこの種のミッションを継続的に実施していく必要があると、ミシェルは語った。
(forbes.com 原文)