ファッション

2024.01.01 12:00

シャネルの調香師が語る「No.5」の進化と変わらない哲学

遠藤宗生
ただ、花は品種や産地によっても香りが異なることから、ポルジュは原料として、エジプトなどその他の地域で栽培されたジャスミンも使用する。創造性を表現するためには、幅広い選択肢を用意しておくことも重要だという。

目指すのは香りの「創造」

非常に繊細な花を適切な方法で摘み取ることは、芸術的な作業だ。ジャスミンの花は毎年8~10月、夜のうちに開花する。農園のスタッフは早朝から作業を始め、1時間におよそ350gを集めるペースで花を摘んでいく。

摘んだ花は、籐のバスケットに入れる。プラスチックの容器は空気を通さず、温度が上がりすぎるため、いまも籐のバスケットを使用している。バスケットに4分の3ほどの花を集めたら、保護するための湿った布をかけ、1987年に敷地内に建てられた工場に運ぶ。そして、3時間以内に計量を行い、加工を開始する。高い品質を維持するための鍵を握るのは、迅速に処理を行うことだ。

ポルジュはシャネルの香水について、次のように語っている。

「シャネルが目指すのは、自然の香りを再現することではありません。 再現するのは不可能です。私たちが目標としているのは、より奥深く、より人間が作り出したものらしい香りです」

「ガブリエル・シャネルがNo.5を作ろうとしたとき、彼女が求めたのは、自らが異なる素材を使い、ドレスを作り出すのと同じように作られた香りでした。つまり、その香水に求められたのは、ジャスミンの香りでも、バラやスズランの香りでもなく、着る人たちのスタイルをよりよく表現する、複雑な香りのコンビネーションでした」

オリジナルのシャネルNo.5が発売されてから、調香技術は進化を続け、シャネルはいくつかのバリエーションを生み出してきた。だが、受け継がれてきた香水に関する哲学は、変わることがない。

forbes.com 原文

編集=木内涼子

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事