日本の強みとチャンスとは
鈴木:実際にChatGPTやGPT-4がどれほどのデータ量で学習しているかは未公表でわからないのですが、世の中のデータ量の偏りの話をすると、例えばウェブだと、大体半分くらいが英語で、日本語は4%ほどです。日本語は上位ですが、とはいえ英語の約10分の1。するとやはり英語圏や英語の文章がベースになった対話になっているはずで、日本語の裏にある文化や嗜好といったものや、一般常識以外の細かい情報は含まれません。また、OpenAIを含め、今世界的な大手IT企業で行われているプロジェクトの情報は、ほとんど出てこなくなっている。なかの人はよいのでしょうが、技術は育たない。だからこそ、開発過程をオープンにした日本語の言語モデルがあったほうがいい。
今、国立情報学研究所(NII)で、日本語に特化した生成AIを、ということで国内からさまざまな機関が集まり、まさにつくっている最中です。完全な「後追い」ではあるのですが、とはいえ、すっ飛ばすことはできなくて、やらないことには追いつけない。それをやりながら、じゃあ次に来るのはいったい何なの? ということを同時に考えていかなくてはならないでしょう。
ChatGPTやLLMが出てきたあとに、それをどううまく使うかが問われていると思います。OpenAIやマイクロソフト、グーグルなどのごく一部の大きな会社がサービスを提供し、それを人々が使うのではなく、小さなモデルでもいいからいろいろな人がつくって、個人や企業や研究室といった小さな単位で協力して何かに特化した面白いモデルができる。そんなシステムや仕組みを日本が先導してつくっていくべきではないでしょうか。
井上:LLMのような基礎的な研究も日本は遅れてしまって、その遅れを取り戻さなければいけない、というのはおっしゃる通りですね。経済の視点で言うと、われわれが海外企業のAIサービスを使うことで貿易サービス収支のなかのデジタル赤字がどんどん膨らむ。やはり日本も基礎的な分野できちんと研究開発をして、それを日本人だけでなく、できれば外国の人にも使ってもらえるようなサービスを展開していく必要があります。
一方で日本の強みというと、応用分野かな、とも思います。ホワイトカラーが創造的な仕事に注力できるように、日本のビジネス文化に合った雑用を引き受けてくれるアシスタントAIの開発や、3DグラフィックスにAIを組み込んで会話ができるようにしたバーチャル・ヒューマンのキャラクターづくりは日本人が向いているでしょう。
また、ブルーカラーの人手不足を補うためのロボットなどにAIを組み込んでいく技術や、医療分野のAIもこれから可能性がある分野だと考えられます。単に生産性を上げてGDPを増やすだけでなく、生活の質を上げていくようなサービスを増やすことが望まれるのではないかと思います。