自律運転事業を手がけている露ヤンデックス共同創業者のアルカディ・ヴォロズは2021年11月に行われたForbes JAPANとのインタビューで、「『人が運転することが許されるのか?』という議論が起きるのも時間の問題かもしれない」とさえ踏み込んでいる(編集部註:ヴォロズは2022年6月に同社CEO職を退任)。今や、センサーやアルゴリズムのコストのほうが人間のドライバーを雇うよりも安価なのだ。残る課題は「安全面」だが、アルゴリズムの急速な進化でそれも変わりつつある。「世界の自動車産業は自律走行に移行しつつあり、将来的にはほとんどの自動車がソフトウェアとハードウェアによって自律的に運転されるようになるでしょう」(ビンヤミニ)
もっとも、完全な自動運転の基準であるレベル5をゴールとするならば、開発過程はまだ道半ば。進歩しているとはいえ、予測不能な事故も起こり得る。2023年10月には、米GM傘下クルーズのロボタクシーがサンフランシスコ市内で、別の乗用車にはねられて車線に投げ出された歩行者を再びひいてしまう事故を起こしている。
このようなケースも含め、ビンヤミニはまだ検知できていないニッチな問題を“ロングテール理論”になぞらえ、仮に99.9%の問題を解決できたとしても、残りのエッジケース(限界値ギリギリの問題)を取り除く必要があると語る。とはいえ、2023年12月に発表された世界保健機関(WHO)の調査によると、自動車事故による死者の数は全世界で約119万人に達する。すべてのエッジケースを想定するのは容易ではない。
「私たち人間には二重基準があり、人の運転による事故では毎年多くの死傷者を出しているのに、その多くは報道されません。しかし、はるかに少ない確率で生じる自律ロボットによる自動車事故は大きな注目を集めます。それは、私たちがロボットに人間以上の正確性を期待しているからでもあります。自律運転業界はその期待に応えなくてはいけません」
ビンヤミニはそう話し、「エッジケースを防ぐためにも、自律運転開発の過程で生じる問題を早期に、それも安全に検証できるバーチャルテストで発見できるようにしたい」と意気込む。それはロボタクシーや自動運転トラックのほか、マイニング(鉱山採掘)や、小型ロボットを使ったラストワンマイル配送のようなケースでも想定している。将来的には、船舶やドローン・航空機への利活用も考えられる。