経営・戦略

2023.12.25 12:00

豊かな経済の別解「文化資本経営」とは何か

普遍化された文化資本は、事業の種になる。例えば、教育サービス化。日本の運送会社の破損率は、世界的に非常に低い。その低破損率を裏付ける文化を特定できれば、世界の運送会社へ価値観の教育サービスを展開できる。また、文化資本を生かした異業種での新規事業も考えられる。飲食産業の本質を、マニュアル化と標準化と考えれば、その文化資本を転用して、介護や医療など「非効率な分野」へ事業展開していける。カルチャーデザインファームKESIKIにて、組織文化や事業デザインを支援する大貫冬斗は「文化資本経営の可能性」を次のように考える。

「日本はいわば、無形資産大国です。企業のカルチャーデザインに取り組む中でよく感じるのは、日本企業は、自分たちが潜在的にもつ無形資産、つまりは文化資本を『当たり前』というラベルをはって見過ごしがちです。鉄道会社を例とすれば、価値ある資産は駅の設備だけではなく、定時運行を支える文化でしょう。このような、歴史の中で培ってきた『当たり前』の価値に再度光を当てることで、現在の組織にも事業にも競争力を与えることができる。これが、今後の日本経済を豊かにする別解となるはずです」(大貫)

文化資本経営には、先駆者がいる。元資生堂会長の故・福原義春だ。資生堂と有識者との討議をまとめた『文化資本の経営』を1999年に出版した福原は、「文化資本経営」提唱者である。

「『文化資本の経営』は一度絶版となったこともあり、埋もれていたコンセプトですが、非常に現代的です。むしろこの時代に、必要なことを言い当てています。だからこそ今、私たちが継承し、アップデートすることで、文化に潜む日本の可能性を、世に問うていきたいと思います」(岩本)


(写真中央)岩本涼◎TeaRoom代表取締役CEO。1997年生まれ。幼少期より裏千家で茶道経験を積み、岩本宗涼(準教授)を拝命。21歳で同社を創業。静岡県本山地域の日本茶工場を承継し、第一次産業へも参入。「Forbes 30 Under 30 Asia 2023」選出、ダボス会議グローバルシェイパーズメンバー、中川政七商店社外取締役。一般社団法人文化資本研究所代表理事。

(写真右)大貫冬斗◎カルチャーデザインファームKESIKIのOrg/Business Design Director。ホスピタリティ業界における事業開発を経験した後、米国コーネル大学MBA取得を経て、カルチャーデザインファームKESIKIの立ち上げに参画。同社では企業や行政等における組織文化や事業のデザインをリードする。多摩美術大学特任講師。

(写真左)岡田裕介◎エグゼクティブコーチ。成人の意識発達の理論や深層心理学等を基礎に、これからの時代の豊かさやコーチングの新たな枠組みを探究。起業家・経営者・CxOを中心にエグゼクティブコーチングやリーダーシップ開発を行う。世界最大規模のコーチング非営利団体ICFの認定プロフェッショナルコーチ、THE COACH Academy カリキュラム開発者。

文=フォーブス ジャパン編集部 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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