経営・戦略

2023.12.25 12:00

豊かな経済の別解「文化資本経営」とは何か

Forbes JAPAN編集部
「資源が有限の世の中で、有形資産だけをみていると、例えばお茶わんが割れたというのは価値がゼロになる行為です。しかし、それを『その時代が紡いだ景色』と見立てることで、割れたお茶碗に、存在価値を与えられる。世界中の争いは、有限資源の奪い合いばかりです。土地の奪い合いに、資源の奪い合い。有限の資源という前提で、効率的に人と地球を利用する仕組みから、貧困も、気候変動も生じています。お茶わんが割れたら、そこを景色と呼ぶ発想から、有限資源の配分を楽しみ、豊かに生きる視点を得られると思っています」(岩本)

見いだされた無形の価値は、資本として蓄積され、やがて資産となる。これが文化資本の発想だ。文化資本研究所では、まず日本の伝統文化の「茶の湯」を対象とした研究から、豊かさのOSとなる文化資本の発掘を目指す。研究手法としてはパターン・ランゲージを活用。同領域を専門とする慶應義塾大学SFC研究所上席所員・長井雅史が参画する。

「無形資産大国」日本の別解

岩本らが野心的なのは、文化資本が生む豊かさの先に、ビジネスへの活用の道筋を描いていることにある。企業が自社に眠る文化を発掘、文化資本化し、企業経営に生かす文化資本経営の方法論を、茶の湯を代表とする日本文化研究から確立させようと意気込む。

文化資本経営とは、資金・財という経済資本中心の経営観を改めたもの。資本や資産は、既成の経済概念の枠組みで考えられているよりも、はるかに広く、多様である。そうとらえ直し、企業の中の有形資産ではなく、企業活動で蓄積されてきた文化的な無形資産に、着目する。コーチングを軸とした「法人向けの組織開発サービス」等を展開するTHE COACH前代表取締役で、エグゼクティブコーチの岡田裕介は、文化資本経営の「無意識の顕在化」の意義をこう語る。

「企業の経営や事業活動を支え、発展させていく力の源は、人であり、蓄積してきた文化そのものです。ただ、それらが経済価値としてすぐに結びつかない場合に、軽視されてしまう。結果、マーケットやプロダクトは急成長しているものの組織崩壊により、経営が立ちゆかなくなってしまう企業は少なくありません。そんなときに多くの企業は、外にだけ答えを求めようとして外部のコンサルタントなどに依存してしまうのですが、外ではなく内から見いだすのが文化資本経営。組織内の人々が営みのなかで、まさに無意識に行われてきた文化を意識化し、普遍的なものにしていくアプローチです。また、文化の源泉は、企業の起源に宿っていることが多いです。創業者が引退してプロダクトやサービスだけが残っている企業も少なくないですが、創業者が生み出した文化の継承がうまくいかなければ、存在意義や力の源泉を失います。組織に眠るOSを呼び覚まし、文化資本として解き放つことが重要です」(岡田)
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文=フォーブス ジャパン編集部 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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