見いだされた無形の価値は、資本として蓄積され、やがて資産となる。これが文化資本の発想だ。文化資本研究所では、まず日本の伝統文化の「茶の湯」を対象とした研究から、豊かさのOSとなる文化資本の発掘を目指す。研究手法としてはパターン・ランゲージを活用。同領域を専門とする慶應義塾大学SFC研究所上席所員・長井雅史が参画する。
「無形資産大国」日本の別解
岩本らが野心的なのは、文化資本が生む豊かさの先に、ビジネスへの活用の道筋を描いていることにある。企業が自社に眠る文化を発掘、文化資本化し、企業経営に生かす文化資本経営の方法論を、茶の湯を代表とする日本文化研究から確立させようと意気込む。文化資本経営とは、資金・財という経済資本中心の経営観を改めたもの。資本や資産は、既成の経済概念の枠組みで考えられているよりも、はるかに広く、多様である。そうとらえ直し、企業の中の有形資産ではなく、企業活動で蓄積されてきた文化的な無形資産に、着目する。コーチングを軸とした「法人向けの組織開発サービス」等を展開するTHE COACH前代表取締役で、エグゼクティブコーチの岡田裕介は、文化資本経営の「無意識の顕在化」の意義をこう語る。
「企業の経営や事業活動を支え、発展させていく力の源は、人であり、蓄積してきた文化そのものです。ただ、それらが経済価値としてすぐに結びつかない場合に、軽視されてしまう。結果、マーケットやプロダクトは急成長しているものの組織崩壊により、経営が立ちゆかなくなってしまう企業は少なくありません。そんなときに多くの企業は、外にだけ答えを求めようとして外部のコンサルタントなどに依存してしまうのですが、外ではなく内から見いだすのが文化資本経営。組織内の人々が営みのなかで、まさに無意識に行われてきた文化を意識化し、普遍的なものにしていくアプローチです。また、文化の源泉は、企業の起源に宿っていることが多いです。創業者が引退してプロダクトやサービスだけが残っている企業も少なくないですが、創業者が生み出した文化の継承がうまくいかなければ、存在意義や力の源泉を失います。組織に眠るOSを呼び覚まし、文化資本として解き放つことが重要です」(岡田)