これからの日本を憂い、文化に潜む可能性を問いたい──TeaRoom岩本涼が、新しい試みを始めた。「文化資本研究所」と銘打ち、一般社団法人を立ち上げたのだ。岩本といえば「茶人起業家」。日本茶の生産販売を祖業に、ウェルビーイングを軸とした大手企業へのマーケティング支援など、伝統文化の枠を拡張する事業を行なってきた。今回の社団設立で、文化への眼差しをさらに広げるという。
「日本文化には、過去に固定された伝統的価値だけでなく、その奥に普遍的で、現代に生きる有用的な価値が潜んでいます。文化資本という切り口で、その探索を始めます」
さらに、探索の先にある「文化資本経営」は、豊かな経済をつくる新しいアプローチになるという。一体、どういうことか。文化資本研究所の共同創立メンバーであるエグゼクティブコーチ岡田裕介、カルチャーデザインファームKESIKIの大貫冬斗と共に話を聞いた。
文化資本とは、文化に埋もれた「豊かさのOS」
始まりは、伝統文化に向き合う中で岩本が気づいた可能性だった。「9歳から裏千家で修業を続ける中で、文化の解釈だけでなく、根底にある思想こそが大切である、と確信しました。先生たちがやられていることは、解釈が中心です。お茶わんを2回時計回りにまわす流派もあれば、逆回しの流派もある。本質はお茶わんを回すことで、客人としての敬意の表明。根底の思想は同じでも、そこには流派による解釈同士の争いがあり、自分には若干の居心地の悪さもありました。だからこそ、伝統文化の解釈だけでなく、裏側の思想を、大切に広めていきたい。そうなると、固定化された伝統文化から脱却をして、その中に潜む有用的な思想を抜き出し、いかに社会へインストールしていくかを考えるに至りました」
伝統文化の解釈論争から有用な思想の抽出へ。文化資本研究所を新設する岩本らは、文化の深層に潜む価値ある「無形資産」に着目。人々が豊かに暮らし、働く視点を与える「オペレーティング・システム(OS)」としてとらえ直した。この文化の中に埋もれた「豊かさのOS」を、文化資本と定義したのである。
「文化とは、人々が豊かに生きるために蓄積していたものです。いわば、集合的無意識の精神と知恵の総体。見方を変えて活かせば、豊かに生きるための視点として機能するOSとなると考えています」(岩本)
文化資本への着目は、「資本(キャピタル)」や「資産(アセット)」の意味を問い直す試みでもある。その発想によって有限資産に、無形の世界で存在価値を与えられるという。