私は連続起業家であり、大学経営の経験もあります。そのすべてを生かしてKHSプログラムを作っています。
大学を率いている期間には、危機や困難な状況に直面することがありました。KHSの奨学生たちには、まさに私自身の経験も共有しながら、困難を乗り越える力を養ってもらいたいと思っています。そこで、実際に問題に直面することを想定した、プログラムを実施しています。つまり、実践に重点を置いてプログラムを作っているのです。
KHSの奨学生には、世界をより良く変えていくための「勇気と道具」を獲得して欲しいと考えています。
ナイキ創業者と交わした言葉
フィル・ナイト(ナイキ創業者でKHSの寄付者)と、KHSの構想を議論している際、こんな話をしました。「このプログラムから、あなた(ナイト氏)やビル・ゲイツ氏のような人物が輩出されるといいですね。大成功した起業家が、次の世代に向けて種をまくために、慈善事業にも力を入れる。起業家として成功するだけでなく、世界の真の変革者になれるのですから」
──では、勇気を教えるにはどうしたらいいのでしょうか?
勇気は、危機的な状況に自らの手で対処し、克服することによってのみ得られるものです。リーダーとして、困難な局面で自分とチームを鼓舞し、問題を解決できるか。反対の声にどう対応するのか。実戦経験が必要です。
私がこの力を身につけたのは、初めて起業したときでした。当時、私はビジネスについては全く知識がありませんでしたし、貸借対照表の読み方さえよく分かっていませんでした。
その結果、最初の顧客を獲得してから会社を急拡大させて、資金が底をつき、従業員のレイオフを余儀なくされてしまったのです。
そのとき、CEOが私にこう言ったのです。「残った社員に対して、なぜこの会社には将来性があるのか、なぜ留まるべきなのかみんなに話して欲しい」とね。
私はすぐに「私はCEOではありません」と答えました。しかし彼は、「会社の創業者なのだから、君が話をすべきだ」と言うのです。そこで、私は腹をくくって、その大変な役割を引き受けることにしました。
こういう役回りを一度経験すると、次からは、信念を持って自分の考えを伝えられるようになるものです。こうした実体験を通じて、私は困難にまっすぐに立ち向かう勇気を身に着けてきたのだと思います。
──KHSは、スタンフォードの他のプログラムとどのように繋がっているのでしょうか?
KHSはスタンフォードの全7学部から学生を集めたプログラムで、起業や研究などに特化した他のプログラムにはない、学際的で、全人格的なリーダー育成を目指しています 。
工学部とビジネススクールには、実績あるアントレプレナーシップ・プログラム(STVPおよびCES)があります。それらが履修できない学生・研究者には、ビジネススクールが提供している「イグナイト・プログラム」が全学開放されており、ここで基本的な起業スキルを身につけることができます。他にもスタンフォードには多くのプログラムがあります。KHSに所属している学生の中には、こうしたプログラムに選ばれている人も少なくありません。
既存のプログラムやビジネススクールのレプリカを作っても意味がないのです。ですから、私たちは、まったく新しい挑戦をしています。