ヘネシー氏が現在スタンフォード大学で力を注いでいるのが、ナイト・ヘネシー奨学生プログラム(KHS)。寄付者であるナイキ創業者のフィル・ナイト氏と、ヘネシー氏の名前を冠し、2016年に創立されました。大学院以上の学生に、全額奨学金および専用のリーダーシップ育成プログラムが提供され、奨学生は68カ国400名以上に上ります。
今年6月には、社会的インパクトのある活動を始める奨学生に、最高10万ドル(約1500万円)の助成を行う基金がスタート。これは、「世界最高水準の若い人材に世界を変えるプロジェクトに専念してもらいたい、そのための金銭的制約を極力排除したい」というKHSの考えが具現化されたものです。日本では、今年春に東京大学と慶應義塾大学でKHSの紹介セミナーも行われました。
KHSがこれまで以上に活発な動きを見せるいま、私たちは、ヘネシー氏から直接お話を聞く機会を得ました。日本初の奨学生である熊平智伸さん、そして彼と一緒に学内プロジェクトを進めている高梨遼太朗さんとともにインタビューしました。
年間100イベントを奨学生が企画
──スタンフォード大学の元学長、起業家、コンピューター科学者として、たくさんの功績を残してきたわけですが、その道のりはどのようなものだったのでしょうか。私は大きな変化を生み出すために、リスクを取るタイプです。研究においても、コンピューターの作り方を一から見直し、新しい方法を実現しようとしてきました。スタンフォードの教員となった後も、1年間の休暇を取って起業しました。もともと起業家になるつもりはなかったんです。1980年代のことですから、起業家養成講座も、ビジネススクールに1つのコースがあるくらいで。
当初、研究論文を発表したときに「これは明らかに良いアイデアだ、産業界はすぐに事業化するだろう」と考えました。実際、2社が実験的なプロジェクトを進めたのですが、結果的には2社ともプロジェクトを中止。その理由は、新製品が旧製品よりはるかに優れているため、自社製品が陳腐化してしまうから、というもの。ほどなくして、有名なコンピューター科学者が私のところへやってきて「あなたが会社を設立しなければならない」と言ったのです。そこで、1984年に会社を設立し、1989年に株式を公開しました。
その会社でしばらく仕事をした後、大学に戻り、大学でのキャリアと研究を再構築し、さらに2つ目の会社を立ち上げました。テレサ・メンという同僚が私のところにやってきて、「とても素晴らしい技術があるんだ」と言ったんです。今日ではWi-Fiと呼ばれている技術です。
※テレサ・メン:無線LAN技術を手掛けたアセロス・コミュニケーションズの創業メンバー
スタンフォードの学長に就任してからは、 奨学金制度や大学における学際的研究、学内でのコラボレーションについて抜本的な見直しを行うなど、変革を実行しました。「大学が、社会の最も困難な問題を解決する中心となるにはどうしたらいいのか?」を常に考えてきたのです。
──ナイト・ヘネシー奨学生プログラム(KHS)を立ち上げ、その運営に力を注いでおられます。同プログラムで目指していることは何でしょうか
世界中から最も優れた学生を集めて、専門横断型のグループを創り、研究機関や、政府、非営利団体、企業の各分野のリーダーまたは変革を主導するチェンジメーカーを輩出し、彼らの研究や挑戦を支援することを目指しています。KHSは奨学金にとどまらず、世界の最も困難な課題に挑戦する人たちのための、リーダーシッププログラムを提供しています。
KHSでは、各界を率いるリーダーによる講義やワークショップを開いていますが、ユニークなのは、それらを奨学生が主導となってプログラムを考え作っていくことです。このプロセスの中で、彼らの成長を後押しできると考えています。年間約200のイベントがあり、その半分は奨学生が企画したものです。