欧州

2023.12.14 15:30

橋頭堡のウクライナ海兵、ロケット砲でT-62戦車撃破 「敗戦論」吹き飛ばす奮戦

旧ソ連製のT-62戦車。2003年9月、モスクワ州クビンカで(Andrey 69 / Shutterstock.com)

旧ソ連製のT-62戦車。2003年9月、モスクワ州クビンカで(Andrey 69 / Shutterstock.com)

ウクライナの海兵隊部隊が南部ヘルソン州のドニプロ側左岸(東岸)の集落、クリンキに築いた橋頭堡(きょうとうほ)に対して、ロシアの陸軍や空挺軍の部隊はあらん限りの車両や兵士を投入している。

だがウクライナ側はこれまで、地雷やドローン(無人機)、砲撃によってロシア側の突撃をことごとく封じ込めてきた。ウクライナ側が最近行った攻撃は、とくに目覚ましいものだったようだ。運が良かったのか、はたまた腕が良かったのか、BM-21グラート自走多連装ロケット砲の乗員が、掩体壕(えんたいごう)に入ったロシア側のT-62戦車にロケット弾を直撃させ、41t・4人乗りのこの戦車を粉砕したとのことだ。

クリンキをめぐる2カ月の戦いは、ロシアがウクライナで拡大して22カ月目になる戦争で、ウクライナがにわかに「敗北」しつつあるという、ここへきて主流メディアが流し始めた話に異議を突きつけるものだ。

たしかに、ウクライナ軍は今年、主に南部で行った反転攻勢で、複数の軸において15kmかそこらしか前進できなかった。ウクライナ軍指導部が当初期待していた60〜80kmの前進には遠くおよばなかった。ロシア側が設けた地雷原は想定よりもはるかに稠密(ちゅうみつ)だった。地雷原に阻まれ、砲撃やドローン攻撃にさらされたウクライナ軍部隊の前進は、遅々として進まなかった。ウクライナ軍の指揮官たちは結局、車両での突撃ではなく、下車した歩兵による攻撃を中心とした戦術に切り替えざるを得なくなった。

また、ロシア軍が東部ドネツク州のウクライナ軍の防御拠点であるアウジーイウカ方面で、1.5kmかそこらだとはいえ、じわじわと前進してきたのも確かだ。

とはいえ、ロシア軍によるアウジーイウカ攻撃も行き詰まっている。それは、ウクライナ軍の反攻が行き詰まったのと同じ理由からだ。地雷や大砲、ドローンは、攻撃側で使われた場合以上に、防御側で使われた場合のほうがより効果的なのだ。ロシアの指揮官たちは、地上攻撃よりも損害を抑えられる方策として、空からの攻撃でアウジーイウカ守備隊の補給線を遮断しようとし始めている。

だが、クリンキの戦況は流動的だ。ウクライナ側はさらに多くの海兵を渡河させており、ロシアの海軍歩兵から複数の島を奪還している。ウクライナ軍の司令部で、クリンキ軸での大規模な攻勢を真剣に提案している者はいない。当面、それは起こりそうにない。それでも、クリンキの橋頭堡はウクライナ軍にとって、今後どこかの時点で、ヘルソン州南部をさらに深く攻撃していく機会を用意しているのは確かだ。


つまり、クリンキは重要な場所なのだ。ウクライナ軍はそれを知っている。そして、ロシア軍も知っている。だからこそ、ロシア軍はドニプロ軍集団の新たな司令官にロシア空挺軍のミハイル・テプリンスキー司令官(大将)を任命し、新編の第104親衛空挺師団をドニプロ側左岸に配置したのだ。
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翻訳・編集=江戸伸禎

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