雨に濡れて音色が変化、インドネシアの珍しい伝統楽器

畑で演奏されているブンドゥンガン。アヒル飼いの雨除けとしても使われてきた(WIKIMEDIA / ERWINABDILLAH)

インドネシア・ジャワ島のアヒル飼いたちは、コワンガン(kowangan)と呼ばれる大きな竹製の伝統的道具を使って雨をしのぐ。コワンガンは、持ち運び可能な雨除けとして、帽子のように被ったり、地面に置いたりして使うことができる。しかし、何本かの糸と竹のツメを付け加えることで、コワンガンはブンデンガン(bundengan)という世界でも非常に珍しい楽器に生まれ変わる。

楽器は通常であれば濡れるのを避けるべきものだが、ブンデンガン奏者は少々の雨を気にしない。むしろ、意図的に楽器を濡らしてから演奏することもしばしばある。インドネシア、ガジャ・マダ大学のGea Oswah Fatah Parikesitは、水がどのようにブンデンガンの音を変化させるのかを研究した。

ブンデンガンの物理的性質を数年来研究しているParikesitは先週、研究チームによる最新の発見について、オーストラリー・シドニーで開かれたAcoustics 2023カンファレンスで発表した

ブンデンガンの共鳴器としての役割を果たすコワンガンは、竹の薄板を「稈鞘(かんしょう)」(成長過程の竹を保護している皮)で包むことによって作られている。

Parikesitは「音質を決めるカギは、稈鞘にあることを発見した」と述べている。「稈鞘の物理的性質を理解するために、私たちはまず稈鞘の生物学的状況を理解する必要があった。稈鞘が竹の稈(幹にあたる部分)にまだくっついている時、その形はゆっくりと変化する。始めは稈の若い部分を保護するために巻かれた状態で、後に稈の古い部分を保護する必要がなくなると、より平面的な形状になる」

稈鞘は濡れると形を変え、これが楽器の音響特性に影響を与える。Parikesitの研究チームは、湿潤状態と乾燥状態で稈鞘の構造を観察し、ブンデンガンの構造全体にかかる稈鞘の力の変化が、音質に顕著な変化を与えるのに十分な大きさであることを発見した。

現在残っているブンデンガンの数は多くない。何人かの研究者がこの異色の楽器を理解、保存するために、さまざまな歴史的、音楽的側面を研究しているが、Parikesitの研究チームは、楽器の音響特性の物理学に特化して研究している。過去の研究の中で同チームは、ブンデンガンの音は、楽器の内側にいる演奏者が聞いた時の方が、外で聞くよりも良い音に聞こえることを発見した。

ブンデンガンは個人的に楽しむことを目的としたものだが、演奏の録音は聴き心地が良いものだ。たとえばこれは、おそらく世界で最後の熟練ブンデンガン奏者と思われるPak Munirによる演奏だ。

ブンデンガンの音響特性を研究することによって、この楽器を更に深く理解することをParikesitの研究チームは望んでいる。

「インドネシア人として、私には特別なモチベーションがある。なぜならブンデンガンは私たちの文化遺産の一部だからだ」とParikesit。「私はブンデンガンをはじめとするインドネシアの絶滅の危機にある楽器を保存し記録していくことに全力を尽くす」

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫・編集=遠藤宗生

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