サイエンス

2023.09.03 14:00

ネアンデルタール人の墓の花、実は動物が運んだ? 副葬品説に疑問符

遠藤宗生

洞窟で暮らす人々が、たき火を囲む様子(Getty Images)

1957年にイラクのシャニダール洞窟で、旧人類ネアンデルタール人の一群の遺骨が発掘された際、1体の遺骨が埋葬された墓穴の中から、花粉の塊が見つかった。フランスの考古学者のラルフ・ソレッキと植物学者のジョゼット・ルロワグーランは、この発見に基づく画期的な著作『シャニダール洞窟の謎』を発表した。花粉の一部は、薬効特性を持つ植物のものと同定された。同著は、この花はおそらく、病人の命を救うという虚しい試みのために体の上に置かれたか、あるいは死にゆく最愛の人への最後の贈り物だったと結論した。

当時、ネアンデルタール人は原始的で野蛮な人類と考えられていたため、共感能力の存在を示すこの発見は、ネアンデルタール人に対する人々の考え方を大きく変えた。その後、この発見には多方面から疑問の声が上がったが、イラク国内の政情不安や戦争のせいで、50年以上にわたりさらなる調査を行うことができなかった。

このたび英国の考古学者と生物学者のチームが発表した研究論文は、ネアンデルタール人が花を副葬品として利用していたとする説を葬り去るものとみられる。論文によると、洞窟で見つかった花粉の蓄積は、動物の活動によって生じた可能性が高いという。

シャニダール洞窟の周囲に咲く野の花々。2023年5月5日撮影(C.O. Hunt/Journal of Archaeological Science)

シャニダール洞窟の周囲に咲く野の花。2023年5月5日撮影(C.O. Hunt/Journal of Archaeological Science)


論文では、堆積物中に保存されていた花粉を再調査した。花粉の粒の大きさ、形状、表面の質感は、植物の種類によって異なる。調査の結果、洞窟の墓地遺跡で採取された花粉は、さまざまな種類の花のものであり、同時期に咲く花のものではないことが明らかになった。これは、埋葬時などの限られた期間に収集されたのではなく、長期間にわたって集められたことを示唆している。

見つかった花粉は、洞窟に生息していた動物が集めたと説明する方が理に適っている可能性が高い。モリネズミなどの齧歯(げっし)類は巣に木の一部や花などをため込む習性があるし、ハナバチは花粉を収集して巣の中に蓄える。シャニダール洞窟では今も、ハナバチが底部を覆う砂の層に巣穴を掘っている。巣穴の化石は、ネアンデルタール人が洞窟を訪れていた4万5000年前にさかのぼるものも存在する。

シャニダール洞窟の堆積物から発掘された昆虫の巣穴の化石(C.O. Hunt/Journal of Archaeological Science)

シャニダール洞窟の堆積物から発掘された昆虫の巣穴の化石(C.O. Hunt/Journal of Archaeological Science)


研究チームは、たとえ花が副葬品ではなかったとしても、ネアンデルタール人が宗教的な世界観を持っていた可能性があることを否定はしていない。シャニダール洞窟で見つかった遺骨は、大きな石柱の近くに意図的に埋葬されていた。これは、この場所に何らかの霊的な重要性があると考えられていたことを示唆している。

ネアンデルタール人は、骨や石でできた人工物を装身具として使用したり、洞窟に壁画を描いたり、6万年以上前におそらく人類史上初の楽器を作ったりもしていたとみられている。

論文「Shanidar et ses fleurs? Reflections on the palynology of the Neanderthal ‘Flower Burial’ hypothesis」は、学術誌Journal of Archaeological Scienceに掲載された。

forbes.com 原文

翻訳=河原稔・編集=遠藤宗生

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