今回の研究結果をまとめた論文の筆頭執筆者で、USF地球化学専攻の博士課程を最近修了したナサール・アルカタンは「飛行機が行方不明になったのは9年以上前で、捜索活動は2017年1月に打ち切られたが、私たちは皆、捜索活動を再開する助けとなる新たなアプローチの導入を目指して研究に取り組んできた。同機に搭乗していた人々の多くの遺族が、少しでも心の整理をつけるのに役立つかもしれない」と説明する。
MH370便のボーイング777型機は2014年3月8日、乗員12人と乗客227人を乗せ、マレーシアのクアラルンプールから中国の北京に向かって飛行中に消息を絶った。レーダー信号と人工衛星のピン信号に基づいて経緯をたどると、同機は南シナ海上空で巡航高度に達した直後に予定の飛行経路から外れ、西へ6時間以上飛行し続けた後、インド洋上空のどこかで消息を絶ったことが分かっている。それから1年以上後、アフリカ沖のレユニオン島に残骸の一部が打ち上げられており、この経路が裏付けられている。
論文の共同執筆者で、USF准教授のグレゴリー・ハーバートは、回収されたMH370便のフラッペロン(翼の一部で、不明機のものと断定された初の残骸)の写真を見た瞬間にひらめきを得た。そこには、蔓脚類がびっしりと付着していた。
「すぐに調査チームの各メンバーにメールを送り始めた。蔓脚類の殻の地球化学的性質によって、墜落点に関する手掛かりが得られる可能性があることが分かったからだ」
ハーバートは進化・保全生物学者として、カキやホラガイなどの貝類や蔓脚類のような殻を持つ海洋無脊椎動物に特に重点を置いた海洋生態系の調査を行っている。この20年間で、無脊椎動物の殻に保存されている海洋温度に関する情報を抽出する手法を開発し、改良を重ねてきた。
研究チームはまず、制御された環境で生きた蔓脚類を使った成長実験を実施した。蔓脚類や他の有殻無脊椎動物は、殻が毎日成長し、内部に年輪のような層ができる。水温の変動によって殻の単一層の化学的性質がどのように変化するかを、酸素の同位体に着目して記録した。