光のエネルギーを吸収し、炭化水素の形で化学エネルギーに変換する光合成の反応過程は、酸素分子(O2)を生成するか否かで2種類に分かれると、米アリゾナ州立大学の宇宙生物学者アリエル・アンバーは、筆者の取材に応じた電子メールで説明している。
酸素発生型光合成は約24億年前、地球の緑化につながった大酸化イベント(酸素濃度の急増現象)に大きな役割を果たしたと考えられている。大酸化イベントはおそらく、地球上に酸素呼吸をする複雑な生命が出現するきっかけとなった。
地球では、酸素発生型光合成の進化が、複雑な生命の出現に不可欠だったと、アンバーは言う。その理由は、複雑な生命は好気呼吸から得られるエネルギーを必要とするからだ。地球大気中のO2濃度の上昇は、生物によるO2生成(酸素発生型光合成)がなければ不可能だっただろうと、アンバーは指摘する。
だが1996年、海洋性藍藻の一種アカリオクロリス・マリナが、葉緑素のクロロフィルaの代わりにクロロフィルdを優先的に用いることが発見された。クロロフィルaは、波長域400~700ナノメートル(nm)の可視スペクトルの光を吸収するが、可視光域におけるより赤色部分の波長700~750nmの光は吸収効率が低下する。
一方、クロロフィルdは、吸収波長スペクトルをさらに40nmほど赤色側に、ほぼ近赤外光の範囲にまで広げていると、米航空宇宙局(NASA)ゴダード宇宙研究所の生物気象学者ナンシー・キアンは、スペイン領カナリア諸島で開かれた欧州宇宙生物学学会(EAI)例会でのインタビューで筆者に語った。
つまり、酸素発生型光合成に利用できる光子エネルギーの限界が、これまで考えられていたのとは異なっていることを意味する。これは、太陽に比べ可視域のエネルギーが低く赤外域のエネルギーが高い恒星に、光合成がどのように適応できるかの一例を示していると、キアンは言う。
酸素非発生型光合成では、すでに近赤外光が使われている。問題は、酸素発生型光合成が、近赤外域のどのくらいの範囲まで利用できる可能性があるかだと、キアンは指摘する。