経営・戦略

2023.12.10 14:00

SDGsバッジをつける必要がない。ヤマハ流「すべてがつながる好循環経営」

中田卓也|ヤマハ Yamaha Corporation 代表執行役社長

そのほか、中南米の国で行っている青少年育成を目的としたオーケストラ・バンド活動支援の「アミーゴ・プロジェクト」や、音楽の知見を生かして魅力的な街づくりに貢献する「おとまち」、高校軽音楽部の活動支援など、音楽を核とした社会課題解決の取り組みを国内外で実施。楽器を売るだけでなく、楽器を手にした人がいかに楽しく、幸せになれるか、を考え続けてきたからこそ出てきている事例だ。
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「一つひとつの事業やプロジェクトで、ステークホルダーがつながり、大きな意味でのエコシステムができている。ヤマハがもち続けている強みでもありますね」

これら各エコシステムを中心で支えるのが「社員」であり、そのボトムアップによる活力こそが企業の社会的価値の創造に重要だという。ベースとなる「働きがいを高める」「風通しのよい組織風土を醸成する」ことを中計でも目標に掲げる。併せて、中田は従業員との対話も重視。20年6月から、中田が直接で現場社員の話を聞く会も実施。23年9月末時点で累計97回実施、延べ1200人の社員が参加した。

「中計も、今回から財務的な数字よりも、ビジョンや事業の意義を前にもってきました。本来は投資家向けですが、社員にも納得感のあるかたちに変えた。なぜなら、ビジョンや目標を実行するのは社員。究極的には社員それぞれが『よし、やるぞ』と熱量とスキルをかけ算しながら対峙できるかどうかですから」
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ヤマハが目指す「世界中の人々のこころ豊かなくらし」。そのなかではSDGsを真正面から経営の根幹に据えることも「当たり前」と位置付ける。そして、経営を支えるプロジェクトが従業員発で生まれ、投資家や取引先、地域、ひいては地球に貢献する仕組みにつながっている。

最後に中田はひとつのエピソードを話してくれた。「クラリネットって、アフリカの一部地域にしか生えてない木を使う。そのグラナディラという木が枯渇しては困る、と社員が『やらなきゃ』とひとりで飛び出して現地でエコシステムをつくり、今では高校生向けの社会科教材の表紙に掲載されている。みんな根底には『音楽が好き』『音楽はみんなを幸せにできる』という熱量がある。経営はそれに光を当てて後押しをするだけだとも言えますね」


中田卓也◎1958年生まれ。慶應義塾大学を卒業後、日本楽器製造(現ヤマハ)に入社。電子機器や電子楽器の企画・開発に携わる。PA・DMI事業部長、取締役執行役員、アメリカ現地法人社長などを経て2013年に代表取締役社長、17年から現職。

ヤマハ◎1887年創業。ピアノや電子楽器の製造販売などの「楽器事業」のほか、オーディオなど「音響機器事業」、電子部品など「その他の事業」の3領域でグローバルに展開。連結従業員数2万27人、臨時雇用者数8225人(平均)。

文=池田正史 写真=吉澤健太

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