江﨑:例えば「イノベーションハブ」と名付けてしまうと、イノベーションに関わらなければ立ち寄ってはいけないのではないかと思うように、あまりに完成されすぎていると、それだけで近寄りがたかったりもします。
一方で、雑居ビルのように多様性があると、集まる人材も多岐にわたって、外から見ても面白いと思われそうです。ただ、そのためには商業的には成功していない人材が集まれるように、あえて賃料帯が安い場所を設計するとか、経済面でフィルタリングされない工夫も必要になってくるかもしれません。
もはや、虎ノ門ヒルズのようにこれほどに計算された街だったら実現できるのではないかな、とバンドマンの立場で思ってしまいます。そういうアンダーグラウンドな人たちが活躍できる場所が設計されていると外からも注目され得ると思います。
本多:ニューヨーク、特にビジネスの中心のマンハッタンは非常に狭いながらも、その中で多様な人々がそれぞれで居場所を持っています。単身者や観光客も多い街でも、それぞれが居場所を感じられるような街になれば、帰属意識も生まれていくのではないでしょうか。
江﨑:帰属意識という言葉は素敵ですね。新しい文化も、自分がその土地で生まれたり、生活してきたりという思いや街への愛着から生まれることもあるはずです。本多さんに伺いたいのですが、どのような仕掛けがあると帰属意識が醸成されるのでしょう?
本多:3つあると考えています。1つは仕事をして給料をもらうこと。2つ目は、家族のように、毎日のように顔を合わせること。3つ目が、生まれや育ちが異なっても、同じような価値観を共有できるところかなと思います。
人々にとって、街に受け入れられたという経験は記憶に残るので、虎ノ門のような街では3つ目が重要と言えます。TOKYO NODEのような場所によって、多様な価値が共有され、江﨑さんのされているジャズのように即興的に何か新しいものが生まれた時、人々はそこに帰属意識を感じるようになるのではないかと思います。
谷本:例えばなにかひとつ、この街にあったら魅力的にうつる要素をあげるとしたら何でしょうか? 日本は機能性を重視してきて、それが評価もされてきましたが、近年はそれよりも禅や茶道のような“概念”が求心力を持っているようにも感じます。
本多:おっしゃる通り、実は海外向けに「日本発」といったアピールはクールに思われていない現実があったりしますね。それよりも、「生きがい」という言葉に代表されるような概念が、わざわざ日本人が伝えなくても勝手にリーダーシップを発揮してくれています。
その意味では、「しなやかさ」といった概念は日本的であり、可能性があるのではないでしょうか。英語のフレキシブルという言葉とも異なり、弱さのなかに強さもある、美しさもひめるような、欧米にはない概念であり、そんな“しなやかな人”たちが集まれば、虎ノ門はビジネス街という既存のイメージも超えていくのではないでしょうか。