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2023.11.30 11:45

ポケマル雨風太陽の国内初「インパクトIPO」で、日本の何が変わるのか

雨風太陽 代表取締役 高橋博之

雨風太陽 代表取締役 高橋博之

東日本大震災をきっかけに東北で小さなNPOとして産声をあげたスタートアップが、12月18日、東証グロース市場へ上場する。産直ECサイト「ポケットマルシェ」の運営を手がける雨風太陽だ。株式公開の手法は、インパクトIPO。NPOとして創業した企業が同手法で上場を果たすのは、国内初となる。

社会性と事業性を両立し、ポジティブな影響を社会に与えることを意味する概念「インパクト」については、Forbes JAPANでも世界的な新潮流として特集を組み、フォーカスしてきた。インパクトIPOとは何か。新しい企業上場の形を紹介しよう。

良いことは儲からない時代を、終わらせる

雨風太陽の代表取締役 高橋博之の名前が一躍全国区になったのは、2013年に高橋が岩手で発行を始めた情報誌「東北食べる通信」だ。高橋自らが生産者を巡り、取材したストーリーをまとめた16ページのタブロイドには、「おまけ」として生産者が手がけた旬の食材がついてくる。同誌は大きな反響を呼び、メディアも注目。高橋の理念を受け継ぐ形で、「食べる通信」が全国各地、そして台湾、香港にも広がっていった。

高橋は、32歳で故郷の岩手県で初当選した元県議だ。小沢王国と呼ばれた岩手で、無所属での出馬にもかかわらず、2期連続でトップ当選。6年間務めた。高橋は地元での政治活動を通じ、高齢化や過疎化で衰退する農漁村、そしてなかなか食べてはいけない生産者の姿を目の当たりにし、課題感を持つ。

2011年には、東日本大震災で被災した沿岸部や農漁村を巡る中で、一次産業への思いを強くし、岩手県知事選に出馬するも次点で落選。その後、生産者の役に立ちたいと、雨風太陽の前身となるNPOを立ち上げ、発行を始めたのが前述の情報誌だった。

2015年には株式会社化し、翌年には産直ECサイト「ポケットマルシェ」をリリース。同サービスは現在、約70万人の消費者と約7900名の生産者を結ぶ規模へと成長し、同社の売上高は2022年12月期、前期比42.7%増の6億3500万円に達した。

そんな同社が行うインパクトIPOとは、企業が社会性と事業性を両立し、社会に与えるポジティブな影響、すなわちインパクトの測定とそのマネジメント(IMM)を適切に実施していることを示しながら、IPOを実現すること。今回の上場に選んだ理由を、高橋は2つ挙げた。

1つ目は、仲間を増やすことだ。同社の上場承認に関する報道が流れた日の夕方、高橋のもとには岩手県宮古市でイカ釣り漁を営む漁師から、一本の電話があった。

「この10年、高橋さんが食から社会を変えていくんだと言って取り組んできたのを見てきた。株なんかやったことはないけど、応援したいから高橋さんの会社の株を1000株買わせてほしい」

電話の主は高橋が11年前、岩手の被災地を回っていた時、船に乗せてくれた恩人だった。他にも「ポケットマルシェ」への登録有無に関係なく、全国各地の生産者や消費者から、同じように同社の株主になって支援したいという声が寄せられている。

高橋はそうした状況について、「当社のビジョンに共感した生産者や消費者が、『この指止まれ』で運命共同体になっていく、理想的な状況」だと表現した。

2つ目はNPOとして創業し、成長を遂げてきた日本を代表するインパクトスタートアップとしての使命感だ。

「僕らはこれまで、『世の中に良いことは儲からない。NPOはボランティアの延長だ』と言われてきました。でもそんな時代は、もう終わりにしなきゃいけない。

国内外でインパクト投資が注目を集め、岸田政権もインパクトスタートアップへの総合的な支援を表明しています。僕らはNPOとして創業した企業として、社会性と経済性の両方を実現できることを証明していきたい」(高橋)
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文=大柏 真佑実

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