累計600万人が利用するなど、スポットワーク市場の成長をけん引するタイミー。若き起業家は、日本の未来をつくる本物の経営者へと脱皮している。
スキマバイトサービスのタイミーが順調に成長を続けている。売り上げは非公開だが、目安となる求人募集数は直近1年間で3.2倍に、働き手の利用者も累計600万人を超えた。それを支える社員数も約540人から約920人へと急増。スタートアップは成長に人が追いつかずに組織崩壊するケースが珍しくないが、同社は離職率を5〜6%程度に抑えており、無理のある拡大ではなかったことがうかがえる。
アプリ上の求人募集数を伸ばすことができた要因はいくつかある。まずは、きめ細かいエリアネットワークを構築したこと。もともと北海道から福岡まで全国7支社のネットワークがあったが、直近1年で沖縄や岡山など6拠点を立ち上げ、地域のニーズをすくいあげた。対象業種を広げたことも大きい。これまでは飲食と物流、小売りが中心だったが、今期はホテル・旅行、イベント、農業にも営業をかけた。
もうひとつ忘れてはならないのが、大手顧客の獲得だ。サービスをスケールさせるには大手企業に導入してもらうことが近道である。しかし、壁は厚かった。代表の小川嶺は難しさをこう語る。
「エンタープライズの多くは日雇いで人を雇うことを想定しておらず、導入には就業規則に手をつけてもらう必要がありました。就業規則の変更は取締役会で決議すべき事案。担当者が好感触でも、『上を動かすのはちょっと……』と止まってしまうことがほとんどでした」
今期は小川がトップセールスでその壁をこじ開けた。設立間もないころにサイバーエージェントの藤田晋やディー・エヌ・エーの南場智子に資金調達の直談判に行くなど、もともと相手が大物でも臆するタイプではなかった。ただ、ベンチャーの創業者とエンタープライズの経営者では効果的なアプローチが異なる。平日は会食で、週末はゴルフ。ネクタイも結び慣れた。大企業相手のプロトコルを身につけ、飲食・物流では売り上げトップ10社のうち9割を落としたのだ。
身につけたものは金融機関との関係にも生きた。タイミーは2022年11月に183億円、23年9月に130億円をデットファイナンスで調達。事業進捗を毎月報告するなどして、売り上げ以外のところでも信用を勝ち得たことが大きかった。
学生起業出身の若手起業家が大人の振る舞いをどうやって身につけたのか。小川は「失敗しながらです」と告白する。
「例えば、ある会食に行ったら、まわりの先輩方は手土産を持参しているのに、いちばん下っ端の自分は何も用意しておらず、もらうだけもらって、肩身が狭かったことがある。こうした経験の積み重ねです」
ここ数年は同年代の友人との飲み会より、ベンチャーや大企業の経営者などとの会食を優先。年間300日以上は「自分より優秀な人」に会って、少しでも何かを吸収しようとしている。