「当社のようなインパクトスタートアップがインパクトを周知しても、その直接的な影響で企業価値が上がるとは考えていません。なぜなら企業価値を決めるロジックは、IPO時なら類似企業と比べたPER、PSRなど、ある程度決まっているからです。ただし、当社が社会性と経済性を追い求める企業だと、世間に広く認知される機会にはなります。当社に興味を持ち、株を買ってくれる人は増えるでしょう。それは個人投資家も機関投資家も、同じだと期待しています」(大塚)
先陣を切る。だから続いてほしい
雨風太陽は今回のインパクトIPOに向け、2020年から前述のIMM(インパクトの測定とマネジメント)を開始し、3年にわたり準備をしてきた。同社では2050年に国内人口の20%(2000万人)の関係人口(※)を創出し、それらの人々が主体的に関与し続ける地域を持つ社会の実現を目標に掲げている。その達成に向け、3つのインパクト指標を設定している。※ 移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のことを指す。
1つ目は、同社サービスを通して生産者と消費者がつながり、直接やりとりしながら生産物を販売する「顔の見える取引にかかる流通金額」。そして2つ目は、「ポケットマルシェ」での生産者と消費者による投稿とメッセージ数を合算した「コミュニケーション数」、3つ目は「都市住民が生産現場で過ごした述べ日数」だ。同社ではそれらの指標を売上高と同等に重視。上場後も継続的に開示していく。
しかし、インパクトの追求が利益の足を引っ張る事象も起きている。同社が提供する親子向け地方留学プログラム「ポケマルおやこ地方留学」は人気で、今夏には約100家族の枠に倍以上の申し込みがあった。利益を優先する企業なら、そこで需要の増加に応じて価格を上げて対応するか、申し込み数が上限に達したところで受付を締め切るのが定石だろう。
ところが同社ではインパクト指標として、「都市住民が生産現場で過ごした述べ日数」を掲げている。そのため価格を上げるのではなく、コストがかかり、利益率が落ちるのを承知の上で、新たな留学先を開拓して参加できる家族の数を増やし、同指標を達成できるようにした。
今回のようなインパクトIPOでも、上場後に株主を選べないという点は一般企業のそれと変わりない。上場後、利益を優先する株主が増えるリスクはつねに存在する。同社は、上場後も社会性と事業性を両立できる環境を、どのように担保していくつもりなのか。
「当社は株主の質を重視していますが、上場後もそれを維持することは簡単ではありません。我々としてできることは、インパクトもあわせて経営指標であり、それをご理解いただいたうえで投資していただきたいと、丁寧に説明していくことです」(大塚)
最後に、高橋はインパクトIPOに向けた決意を次のように語った。
「NPO出身の企業として、僕らがインパクトIPOで先陣を切ります。そのため非常に責任を感じています。これからは、社会課題が経済の成長エンジンになるはずです。僕らが背中をちゃんと見せて、次についてくる企業が増えていくことで、か細い道は太くなっていく。それがやがて将来世代にとって当たり前の道になり、初めて社会が変わる。1社ではどうにもなりません。みんな続いてきてくれ、と伝えたいですね」(高橋)