抗生物質が効かない微生物、「抗微生物薬耐性」について知っておくべきこと

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抗微生物薬耐性(AMR,Antimicrobial resistance)は、医療費の増加、入院期間の長期化、死亡リスクの上昇につながるおそれがある。世界保健機関(WHO)は新しい報告書の中で「世界的な公衆衛生と発展に対する最大の脅威」と表現している。

抗微生物薬とは、抗真菌剤、抗生物質、抗ウイルス剤、抗寄生虫薬のような医薬品で、真菌、細菌、藻類などの微生物の増殖を阻止することにより、ヒト、動物、植物の感染症を治療・予防するために使用される。

WHOの報告書によれば、ヒト、動物、植物に対する抗微生物薬の過剰使用と誤用が、抗微生物薬耐性病原体の発生の主な原因だ。

2019年には130万人近くが薬剤耐性微生物が直接の原因で死亡し、さらに450万人が薬剤耐性微生物を間接的な原因として死亡した。

貧困と不平等が抗微生物薬耐性を拡げる主な原因であるため、主に低・中所得国が影響を受けているが、地域や所得レベルに関係なくすべての国で抗微生物薬耐性の影響がみられる。

世界銀行は、抗微生物薬耐性により、2050年までに世界で1兆ドル(約149兆円)の医療費が追加発生し、2030年までにGDPで1兆ドルから3.4兆ドル(約149兆円から約507兆円)の損失が出ると推定している。

Clinical Infectious Diseases(臨床感染症)誌に発表された2021年の研究によれば、医療現場でよく見られる6種類の多剤耐性菌による感染症を治療する費用は、米国では年間46億ドル(約6860億円)以上になると推定されるという。

280万人。米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、毎年これだけの数の人々が米国で抗微生物薬耐性病原体の感染症に罹患している。そして約3万5000人がその感染症で死亡している。

多剤耐性菌とは、特定の複数の抗生物質に対して耐性を持つようになった細菌のことで、そうなるとこの細菌の治療や殺菌に、それらの抗生物質は使えない。薬剤耐性菌は、抗生物質を必要以上に長く服用したり、必要でないときに服用したりすると出現する。抗生物質の使用回数が多ければ多いほど、薬剤耐性菌が増殖しやすくなる。

この細菌は人に感染する可能性があり、感染した表面に触れたり、感染した体液に直接触れたりすることで人から人へと感染する。この細菌に接触したら自動的に発病するわけではないが、高齢者や免疫力が低下している人、慢性疾患のある人、最近手術を受けた人、傷口が開いている人、体内にチューブがつながれている人、以前に抗生物質を服用したことのある人などは最もリスクが高い

WHOによれば、抗微生物薬耐性は他の病気の治療を困難にし、他の医療処置をより危険なものにして、入院期間の長期化を招く。また、医療費の増加も引き起こし、2019年の調査によれば、米国では年間200億ドル(約3兆円)の医療費がかかり、約350億ドル(約5兆2000億円)の生産性が損失している。

CDCの報告によると、米国で医療従事者が2022年に処方した抗生物質は2億3640万件で、これは人口1000人あたり709件に相当する。ペニシリン系抗生物質が最も多く処方され、その割合は1000人当たり159人だった。女性は男性よりも抗生物質を処方されることが多かった。抗生物質の処方件数が最も多かった地域は南部で、合計1億620万件だった。

CDCによれば、外来診療で処方される抗生物質の少なくとも30%は不必要だという。不必要な抗生物質の長期使用、誤投与、誤った抗生物質の処方など、不適切な抗生物質の使用は、外来患者の場合、抗生物質使用量の半分に近いと推定される。

forbes.com 原文

翻訳=酒匂寛

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