アート

2023.11.22 16:30

アートの出前、アートの薬 東京藝大の「研究場」が生み出すもの

東京藝術大学「芸術未来研究場展」にて。同大学長で研究場リーダーの日比野克彦氏(右)

アートを”薬”として社会実装する

ラグとクッションには仕掛けはない。寝転がり、「のぼる」と書かれた冊子を広げるだけ。超絶技巧の絵画でもなければ、最新のテクノロジーを駆使した作品でもない。
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これもケア&コミュニケーション領域の作品で、ギリシャ出身の留学生クロエ・パレら三人のユニットが手がけた。クロエはここ数年、不安定な国際情勢やコロナで気持ちが滅入り、不安な毎日だったと話す。そんな時、『東京藝大「I LOVE YOU」プロジェクト』があることを知り、他校の学生アリウェンらと国籍、学籍を超えて「家族のようなあたたかさ」を感じる本作品を作った。
展示風景より。クロエ・バレ、平河伴菜、アリウェンによる「のぼる」

展示風景より。クロエ・パレ、平河伴菜、アリウェンによる「のぼる」

「のぼる」の冊子には、三人がフィールドワークした際に撮影した風景、イラスト、テキストが文脈に縛られることなく綴られている。冊子は、途中で天地が逆さになる仕掛けになっていて、読めないまま眺めても、反対側に寝転んだ人のためにページをめくってもいい。

「芸術が未来に効く」。その具体的な出口について、ケア&コミュニケーションでは「文化的処方」というキーワードを掲げている。超高齢化社会に向け、孤立や孤独に陥ることなく、こころ健やかに暮らしていくために、アートが”薬”の役割を果たすのではないか──。こうした作品も、その社会実装に向けたアクションのひとつだ。

古代から続く「アートDX」の現在地

アートの世界に、DXの波はどう影響するのか。この問いに「アートとテクノロジーは別々ではなく、古代から車の両輪のように歩んできた関係」と語るのは、東京藝大副学長(デジタル推進担当)映像研究科教授の岡本美津子氏だ。「芸術未来研究場」でアートDX領域長を務める。

アートDX領域では、ゲームアプリを用いた認知症の早期発見、音楽のためのプログラミング言語など、音に関するデジタルツール、インフラに関する「音楽土木工学」など、幅広い研究と実践が行われている。一見とっつきにくい難解さがあるが、展示会場では、天井から吊るされた日比野のコピーが来場者の好奇心をくすぐる。
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「みなさん! 建築の調査手法が拡張されました」

このコピーとともに展示されるのは、「環境」をより広い定義で捉えリサーチを実践するヨコミゾ研究室の活動だ。3Dスキャナで撮影した宮城県七ヶ浜町の映像をもとに、VR空間で設計した建築を疑似体験できる。七ヶ浜町の現地で採集した石、土、枯葉なども展示され、その「土地のたたずまい感」を体感しながら、建築デザインの最先端のアプローチを体験できる。

展示風景より。宮本凱土・ヨコミゾマコト・金暁星・加藤雄大・平松那奈子による展示

展示風景より。宮本凱土・ヨコミゾマコト・金暁星・加藤雄大・平松那奈子による展示

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取材・文=鶴岡優子 編集=鈴木奈央

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