気候・環境

2023.11.21 13:00

地球上の氷消失がもたらす、4つの深刻な危機


報告書の著者で、諮問グループ「Ambition on Melting Ice」(通称「雪氷圏の友」)の主任科学顧問兼コーディネーターであるジェイムズ・カーカムは、次のように説明する。「雪氷圏は、飲用水と農業灌漑、および水力発電のために数十億の人々が依存している生命線です。それはまた巨大な脅威でもあります」

カーカムは、人間の歴史を通じて氷は気候を安定させる役割を担い、人類文明の繁栄を可能にしてきたと語る。しかし今は、主として化石燃料の燃焼による温室効果ガス排出が、世界の気温を人類が経験したことのない水準まで押し上げている。

「雪氷圏は遥か遠くにあり、近づくことも困難ですが、この地帯に起きる変化の影響は地球全体に波及し、無傷でいられる国はありません」とカーカムは言う。「昔のことわざを言い換えた『極域で起きることは極域に留まらない』は、まさにそのとおりです」

現在の海面上昇のおよそ3分の2は、氷河と氷床の氷消失が原因で起きている、とカーカムは説明する。6億人以上の人々が海抜10m以下の地域に住んでいるので、海面が1cm上昇するたびに、新たに2~300万人以上が洪水の危険にさらされる。

海面上昇は、膨大な経済損失も生む。一例を挙げれば、2012年にハリケーン・サンディが米国東海岸を襲った際、海面上昇によって米国の経済損失は13%(約1兆2000億円相当)増加したことを専門家らが明らかにした。各国政府が現在の気候変動対策に関する公約を果たしたとしても、2100年までに0.5mの海面上昇が起き、1億5000万人が危険にさらされる可能性があると科学者らは予想している。

しかし海面上昇は氷消失が及ぼす影響の1つにすぎない。アジアでは20億人近くが、灌漑、飲用水および水力発電を、山間部の氷河や雪解け水に依存している。現在の地球温暖化の傾向が続けば、今世紀中にヒマラヤの氷の最大75%が失われる可能性がある。

それ以外にも、永久凍土の融解が「非常に心配」だとカーカムは強調する。現在永久凍土は、排出国トップ10とほぼ同じ量の温室効果ガスを放出しており、世界の温暖化を1.5度以内に留めつつ各国が排出できる量を、実質的に減らしている。「もし私たちが永久凍土の広大な領域を融解し続けたなら、その排出量は、重要な気候目標を達成できなかった場合の現在の米国や中国の排出量と同程度まで増加するでしょう」とカーカムは言う。

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翻訳=高橋信夫

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