映画

2023.11.18

東京国際映画祭グランプリ、チベットが舞台の「雪豹」が象徴するもの

「雪豹法師」と呼ばれるチベット僧は雪豹と正面から向き合う / 映画「雪豹」より

メイン会場が、六本木から日比谷・有楽町・丸の内・銀座エリアに移って3年目となった東京国際映画祭(10月23日〜11月1日)。

今年で第36回を迎えるが、日比谷地区では同時期に東京都主催の「東京味わいフェスタ2023(TASTE of TOKYO)」も開催されたり、映画祭独自の関連イベントなども数多く行われたり、例年になく「お祭り」的ムードで盛り上がっていた。

映画祭での上映作品数も、昨年の174本から25パーセント以上増えた。コロナ禍を経て海外からの参加者も2000人を超え、文字通り「国際」の名にふさわしい賑わいを見せた映画祭となってきた。

メインイベントであるコンペティション部門にも、114 (昨年は107)の国と地域から、1942本(同1695本)の応募があり、世界でも東京国際映画祭の存在はますます大きなものとなっている。

そのコンペティション部門の最高賞である東京グランプリには、今年はチベットを舞台にした作品「雪豹(Snow Leopard)」が輝いた(受賞作品一覧は最後に掲載)。
東京国際映画祭コンペティション部門で東京グランプリを受賞した「雪豹(Snow Leopard)」の受賞セレモニー

ヴィム・ヴェンダース監督も絶賛

グランプリ作品である「雪豹」は、保護動物である白い豹と、その豹によって飼っていた羊が襲われた人々との相克を描いた作品。チベットの雄大な自然のなかで描かれる動物と人間の生きるための闘いは切実なドラマを生み、「満場一致」での選出だったという。

荒涼とした風景の続くチベット自治区、テレビ局のレポーター(ジョン・ズーチー)とカメラマンが車を走らせていた。レポーターの旧友である通称「雪豹法師」と呼ばれるチベット僧(ツェテン・タシ)から、実家に「雪豹」が現れたという連絡があったのだ。

保護動物である希少な雪豹の出現にレポーターたちは色めき立ち、ビデオカメラに収めようと現地に到着するが、実はチベット僧の家族たちは困惑を隠せないでいた。それは、雪豹が一家の飼っていた羊を9頭も襲い、殺してしまっていたからだ。
雪豹はCGで描かれていたが、劇中ではリアルに躍動していた / 映画「雪豹」より

雪豹は羊が飼われていた囲いのなかにいたが、チベット僧の家族の兄(ジンパ)は、1000元を超える被害が出たので雪豹は殺してしまえと激怒していた。一方、父親はどうやら事なかれ主義でこのまま逃がしてしまおうと兄を宥める。そして雪豹を愛するがために「雪豹法師」と呼ばれるチベット僧の弟はその狭間で揺れていた。
次ページ > 現代社会が孕む問題の縮図が映される

文=稲垣伸寿

ForbesBrandVoice

人気記事