宇宙のどこかの星に座り、空を見上げながら寂しく待っているWall-E(ウォーリー)。テクノロジーとアイデアを仕事にしている私は、このポスターと次のようなイメージをいつも重ね合わせていました。
「テクノロジーは孤独なのかもしれない。単体では何もできない。でも、愛やアイデアと出会い、誰かの役に立てたテクノロジーは幸せなのかもしれない。そして、強い愛とテクノロジーが出会った時、それは常識を変えてしまうほどのパワーになる」
今日はそんな話をしたいと思います。
世界を驚かせる新しいツールの誕生
10月の頭に、オーストリアのリンツで行われた世界最大のメディアアートの祭典「アルスエレクトロニカ」で、NTT人間情報研究所、WITH ALSとともに、新しいツールの発表とライブパフォーマンスを行いました。「筋電」という技術と、「ALS=身体を動かせない病気という概念を覆したい」と言う想いの出会いによって、世界を驚かせる新しいツールが誕生したのです。
ALS*という病気については、去年このコラムでも書きましたが、全身の筋肉が硬化し動かなくなる病気です。スティーブン・ホーキング博士などは有名ですが、現在でも世界で約35万人が闘病しています。
*ALS
筋萎縮性側索硬化症。難病指定を受ける病気のひとつで、運動神経の損傷により脳から筋肉への指令が伝わらなくなることで、全身の筋肉が少しづつ動かしにくくなる病気。一般的に、身体を自由に動かすことができなくなっても、脳の機能や皮膚感覚、視力や聴力、内臓機能などは保たれることが多い。
今回発表したのは、そのALSと共生しながら大好きな音楽活動を続ける武藤将胤さんとともに行った新たな実験プロジェクトです。
「ALS=身体が動かせない病気」という概念を覆すメッセージ
実はこのプロジェクトは、NTTさんの筋電研究の話を聞いたことがきっかけでスタートしました。
筋電とは、筋肉を動かした時に発生する微粒な電流のこと。研究の話を聞きながら、その時に思ったのは、「武藤さんは、自分の筋肉で手を上げることはもうできないけど、もしかしたら、筋電を使うことでもう一度身体的な同期を作ることができるんじゃないか。」「ALS=身体が動かせない病気」という定義を覆せるんじゃないか、という発想です。
筋電を使って身体的な同期をつくる
今年の5月某日。NTTさんの横須賀にある研究所で、武藤さんの筋電が取れるかの実験を行いました。その結果に一同歓喜。健常の方よりもノイズが少なく、きれいな筋電信号が取れたんです。
そこから、私たちDentsu Lab Tokyo、NTT、WITH ALSは、チームを組成し、ライブパフォーマンスに向けてツールの制作を開始しました。